そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章90話(300話/3章完)

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「どうするつもりだい?」
「……固定します。光の柱を」

 固定? とクリフ様が聞き返す。私は小さくうなずき、光の柱を指さす。

「アレを完全に消し去るには、近くまで行かないといけないから……」

 どうしてそんなことがわかるのだろう。自分でも不思議だった。でも、わかる。これはきっと、――彼女が私に力を貸してくれているのだろう。

 ――私の中にいるのなら、力を貸して。月の女神よ――……!

 そう願うと、私の意識がどこかに弾かれたように飛んだ。ふわり、と風に浮いている感じ。見下ろすと、私が見えた。――じゃあ、今、私になっているのは……?

「……ソル、ルーナ」

 ぴくり、とソルとルーナが私の異変に気付いたように顔を上げた。そして、なにも言わずに、すっと頭を下げた。精霊たちの頭を撫で、不意に『私』がこちらを見る。そして、
「借りるわね」と呟くと、魔術師たちを見渡す。

 ――これは、マザー・シャドウがジェリーの身体を乗っ取ろうとしたときと同じことをされているの……? それとも、彼女はただ単に、私に力を貸そうとしてくれているの……? 困惑しながらも、私はただ見ていることしか出来なかった。

「あなたたちの魔力を、借ります。そうすれば、少しの間、アレを止められる。その間に、カナリーン王国に向かい、すべてを終わらせましょう」
「……エリザベス?」

 クリフ様が怪訝そうな表情を浮かべた。『私』はそんなクリフ様に優しく微笑みを浮かべてから、マジックバリアを解き、手のひらを上にしてなにかを唱えた。

 手のひらに魔力が集まっているのがわかる。そしてなにかが形成されていく。――杖だった。

「杖……?」

 ヴィニー殿下が驚いたように言葉を発する。『私』はもう一度、ソルとルーナに声を掛けて、月と太陽を模した杖を握りしめ、目を閉じる。なにかを呟いているのか、口元が動いていた。

「呪文……?」

 クリフ様が不思議そうに『私』を見る。『私』が杖を天に掲げると、淡い光が集まって来た。――魔力だ。

「ソル、ルーナ、シェイド。あの光の柱を固定するから、魔力を解放して!」

 精霊たちはこくりとうなずき、あのシェイドでさえ、みんなの前に姿を現し蓄えていた魔力を解放した。それに驚いたのはヴィニー殿下のようだ。それは、そうだろう。

 彼は幼い頃からずっと、シェイドと共に過ごしていたから。――人見知りのシェイドが、魔術師たちの前に姿を見せるなんて、と驚いたのだろう。

 膨れ上がった魔力はかなりの大きさだ。

「――これなら――」

 そう、『私』が確信めいたように微笑む。目を閉じ、魔力の塊を光の柱に向けて放つ。ビリビリと空気が振動したような、感覚。

 魔力の塊は魔塔から真っ直ぐに伸びて、光の柱を囲んだ。

「あそこがカナリーン王国。あの国にはまだ、魔石が大量に残っているはずよ。そして、それは国を滅亡させたときに国民たちの魂を縛りつけた。あの光の柱は――カナリーン王国の国民たちの悲鳴。……どうか、助けてあげて……」

 すっと光の柱を指さして、『私』がそう言った。みんな、どうして『私』がそんなことを言い出すのかわからないようだった。

 彼女は最後に私を見て、切なそうに「おねがい」と口を動かす。

 ――私は、こくりとうなずいた。

☆☆☆

 その後、建国祭は何事もなかったかのように終わりを迎えた。

 ダンスの人気投票に選ばれたのは、平民部門からはイヴォン、私たちからはディアが選ばれた。

 国王陛下が望みを聞くと、イヴォンは自身に爵位が欲しいことを伝える。没落したとはいえ、イヴォンは元々貴族の出身だ。自身が爵位を持つことで、ハリスンさんと対等になれると考えたのだろう。

 ディアは、イヴォンとハリスンさんの結婚の承諾を願った。

 自身のことよりも、友の願いを優先させるディアの優しい心に、みんなが拍手を送った。

 ――ともあれ、これで一週間続いた建国祭は幕を閉じた。

 だけど、まだ問題が残っている。突如現れた光の柱に、みんな戸惑いが隠せないようだった。

 私はディアを連れてアンダーソン家に帰ってから、家族を集めてこう宣言した。

「長期休暇を利用して、カナリーン王国に向かいます」

 みんな、私がそう言うと思っていたのだろう。反対する人はいなかった。ただ――……。

「大切な妹をひとりで向かわせるわけにはいかないな」
「僕たちも行くよ、リザ」

 シー兄様とアル兄様が、にこりと微笑みを浮かべてそう言ってくれた。

 私はふたりを見て、「うん」と答える。

「……わたくしも、行ってはダメかしら?」

 ディアの問いかけに驚いた。彼女は真っ直ぐに私を見る。芯の強い瞳を受けて、「ありがとう」と彼女の手を取った。

 ――月の女神の願いを叶えるために、カナリーン王国に向かうことを決意した。
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