122 / 250
3章
3章87話(297話)
しおりを挟む「……終わりましたわね」
ディアの感嘆とも言える吐息と言葉が聞こえてきた。私とジーンは顔を見合わせて、それからゆっくりとディアへ視線を移動させる。
「……そうね」
「……あっという間の一週間だったわ」
私とジーンがそう言うと、ディアはこくりとうなずいた。……と、思ったら、がばっと私たちに抱きついてきた。
ディアの身体が震えていることに気付いて、私とジーンはぽんぽんと彼女の背中を優しく叩く。お疲れ様、という気持ちを込めて。
「ソルとルーナもありがとう」
「がんばった!」
「エリザベスたちもお疲れ」
労わるようにソルに言われて、私たちは顔を見合わせて微笑み合った。
建国祭の『舞姫』としての役割は、もう終わり。最後まで役目を果たせた達成感と清々しさを感じながら、着替えることにした。
衣装から普段着に着替えて、このあとどうしようかと話し合う。最終日だし、せっかくだから再び外を見に行こうということになり、控室から出るために扉に近付くと、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ?」
私の声を聞いて、扉がガチャリと音を立てて開く。最初に視界に飛び込んできたのは、彩り豊かな花々だった。
「一週間、お疲れ様」
次いで、耳に届いた声に顔を上げると、ヴィニー殿下とアル兄様、シー兄様がそれぞれ花束を持っている姿が見えた。
「あ、ありがとうございます……」
驚いて、目を瞬かせてから差し出された花束を受け取る。
アル兄様はジーンに、シー兄様はディアに花束を渡していた。
「……綺麗……」
花束に顔を近付けてみると、ふわりと甘くて良い香りが鼻腔をくすぐった。いつの間に用意してくれたのだろう。
「舞姫たちのダンスで、建国祭は盛り上がったよ。本当にありがとう」
王族を代表するかのように、ヴィニー殿下が静かに言葉を発した。私たちは花束を片手に抱えて、片手でワンピースの裾を掴み、カーテシーをした。
「光栄です、ヴィンセント殿下」
ディアがそう答える。
それから顔を上げてふわりと微笑むヴィニー殿下を見た。……彼は、きっとこの国のことが好きなのね。
王族として生まれ、様々なことがあっただろうけれど、この国を嫌いになってはいない。
「人気投票も始まるし、結果発表まで自由時間だよ。どこかに行く?」
「最終日だから、外を見に行こうと思っていました」
アル兄様が私たちに問いかけてきたので、ジーンが答えた。
「それなら、バラバラに移動したほうが良いかもね。きみたちが三人固まって移動すると、他の人たちもついてきそうだし」
ヴィニー殿下の言葉に首を傾げる。他の人たちもついてきそう?
「それじゃ、結果発表までそれぞれの護衛につくということで?」
「ああ、それでいいと思う。……それじゃあ、建国祭最終日、僕にきみをエスコートする栄誉をくださいますか?」
シー兄様の言葉に、ヴィニー殿下がうなずくと、私に向けて手を差し伸べる。私は一瞬戸惑ったように彼を見る。……彼は、優しいまなざしを向けていて、なぜか頬が熱くなっ
たような気がした。
差し伸べられた手を取り、感じたのはヴィニー殿下の少し冷たい体温だった。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
8,755
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。