そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章87話(297話)

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「……終わりましたわね」

 ディアの感嘆とも言える吐息と言葉が聞こえてきた。私とジーンは顔を見合わせて、それからゆっくりとディアへ視線を移動させる。

「……そうね」
「……あっという間の一週間だったわ」

 私とジーンがそう言うと、ディアはこくりとうなずいた。……と、思ったら、がばっと私たちに抱きついてきた。

 ディアの身体が震えていることに気付いて、私とジーンはぽんぽんと彼女の背中を優しく叩く。お疲れ様、という気持ちを込めて。

「ソルとルーナもありがとう」
「がんばった!」
「エリザベスたちもお疲れ」

 労わるようにソルに言われて、私たちは顔を見合わせて微笑み合った。

 建国祭の『舞姫』としての役割は、もう終わり。最後まで役目を果たせた達成感と清々しさを感じながら、着替えることにした。

 衣装から普段着に着替えて、このあとどうしようかと話し合う。最終日だし、せっかくだから再び外を見に行こうということになり、控室から出るために扉に近付くと、ノックの音が聞こえた。

「どうぞ?」

 私の声を聞いて、扉がガチャリと音を立てて開く。最初に視界に飛び込んできたのは、彩り豊かな花々だった。

「一週間、お疲れ様」

 次いで、耳に届いた声に顔を上げると、ヴィニー殿下とアル兄様、シー兄様がそれぞれ花束を持っている姿が見えた。

「あ、ありがとうございます……」

 驚いて、目を瞬かせてから差し出された花束を受け取る。

 アル兄様はジーンに、シー兄様はディアに花束を渡していた。

「……綺麗……」

 花束に顔を近付けてみると、ふわりと甘くて良い香りが鼻腔をくすぐった。いつの間に用意してくれたのだろう。

「舞姫たちのダンスで、建国祭は盛り上がったよ。本当にありがとう」

 王族を代表するかのように、ヴィニー殿下が静かに言葉を発した。私たちは花束を片手に抱えて、片手でワンピースの裾を掴み、カーテシーをした。

「光栄です、ヴィンセント殿下」

 ディアがそう答える。

 それから顔を上げてふわりと微笑むヴィニー殿下を見た。……彼は、きっとこの国のことが好きなのね。

 王族として生まれ、様々なことがあっただろうけれど、この国を嫌いになってはいない。

「人気投票も始まるし、結果発表まで自由時間だよ。どこかに行く?」
「最終日だから、外を見に行こうと思っていました」

 アル兄様が私たちに問いかけてきたので、ジーンが答えた。

「それなら、バラバラに移動したほうが良いかもね。きみたちが三人固まって移動すると、他の人たちもついてきそうだし」

 ヴィニー殿下の言葉に首を傾げる。他の人たちもついてきそう?

「それじゃ、結果発表までそれぞれの護衛につくということで?」
「ああ、それでいいと思う。……それじゃあ、建国祭最終日、僕にきみをエスコートする栄誉をくださいますか?」

 シー兄様の言葉に、ヴィニー殿下がうなずくと、私に向けて手を差し伸べる。私は一瞬戸惑ったように彼を見る。……彼は、優しいまなざしを向けていて、なぜか頬が熱くなっ
たような気がした。

 差し伸べられた手を取り、感じたのはヴィニー殿下の少し冷たい体温だった。
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