そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章85話(295話)

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「それじゃあ、わたくしたちはこれで」

 お母様たちはひらりと手を振ってから控室から離れていく。それを見送り、完璧に姿が見えなくなってから控室の扉を開いて、三人で入りぱたんと閉じたあと――私たちは同時に深く息を吐いた。

「き、緊張したわ……」

 ジーンが胸元に手を置いて、頬を赤らめた。さっきまで、いつもと同じ彼女の様子だったから緊張していたと知り驚いた。

「ジーンでも緊張するのね……」
「当たり前でしょう! もう、エリザベスったら、なにを言っているの」

 呆れたような表情を浮かべて私を見るジーンに、私は目をまたたかかせて小さく笑ってしまった。

「だって、いつも堂々としている感じがしたから、緊張しないのではないのかなって」
「あ、それわたくしも思っていたわ」
「ディアまで?」

 自分がそういう風に見られているのが予想外だったのか、ジーンは頬に人差し指を添えると首を傾げた。

「私、そんな風に見えているの……?」

 こくり、と私とディアがうなずくと、ジーンは肩をすくめた。

「ま、まあ、それはともかく。最後のダンスのためにも、着替えましょう」

 ぱん、と両手を叩いて衣装に着替え始めた。私とディアは顔を見合わせて、それからジーンに続く。今日の衣装は最後ということもあり、建国祭の初日で着たディアの故郷の衣装……の別バージョン。

 柔らかな肌触りの衣装だけれど、リボンはシルクで出来ているし、ところどころ宝石が散りばめられている。

「ソル、ルーナ。今日で最後だから、お願いしたいことがあるの」

 精霊たちに声を掛けると、ぴょこりと顔を見せてくれた。不思議そうに見上げるソルとルーナに、私はひとつ、お願いをした。ソルとルーナは楽しそうに笑ってうなずいてくれた。

「――これで本当に最後なのね」

 名残惜しむように、ジーンが言葉を口にする。髪を結んでいたディアが動きを止めて、ジーンに顔を向けて微笑んだ。

「一週間、あっという間でしたわね」
「ね。いろいろなことがあったけれど……」

 その『いろいろ』に私の前世のことも入っているのだろう。私だって、驚いた。カナリーン王国のことを考えて、小さく息を吐いた。

「エリザベス、ポニーテールでいい?」
「え、うん」

 ジーンが私の後ろに立ち、櫛とリボンを手にして聞いてきた。

 慣れた手つきで私の髪を梳き、ポニーテールにしてくれた。

「きつくない?」
「大丈夫」

 赤いリボンに金色の刺繍が入っているリボンで、きゅっと結んでくれた。ディアもジーンも最後のダンスに向けて、思いをはせているようで視線を落してゆっくりと息を吐いている。

 朝のダンスで最後。

 そう思うと、一気に大変だった練習も、一週間続いたダンスの時間もとても貴重で煌めくような思い出になっていることに気付いて、私は小さく笑ってしまった。
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