そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章82話(292話)

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 ――夢だとわかっている。わかっているけれど……、とても幸せに見えて、この国が滅んだなんて信じられない。だって、彼女の目を通して見るカナリーン王国はとても栄えているように見えた。

『たった数年でここまで栄えるとはね』
『あなたたちと出会ってから五年くらいかしらね。魔法を使えるとは聞いていたけれど、こういう使い方もあるのねぇ……』

 しみじみと呟く女性は、精霊たちを優しく撫でた。

『ま、用は使い方次第ってことで』

 肩をすくめる男性に、女性は『ふうん』と相槌を打ってからそっと男性のほうに視線を移動させた。

 愛しそうに彼女を見つめる男性は、そっと彼女の手を握った。そしてそのまま黙ってしまった。

『いろいろあったけれど、住む場所としては合格点じゃない?』
『そうね。まさかこの地に住もうとする人間がいるとは思わなかったけど……。この地の魔石もだいぶ落ち着いたみたいだし、あなたはしっかりと役目を果たしてみせた。――あなたの望みは、なにかしら?』

 男性が手を繋いだままゆっくりと身体を彼女に向ける。もう片方の手も握って、真剣な表情を浮かべて口を開いた――……。

☆☆☆

「エリザベス、朝よ!」

 ハッとして目が覚めた。結局男性がなんて言ったのかはわからなかった。ただ、彼女のことを本当に愛しているのだろう。彼女を見つめる瞳には隠しきれない恋慕が見えた。

「……また、夢……」
「え?」

 起こしてくれたジーンは私の言葉を拾い、目を丸くしていた。一度深呼吸をしてから起き上がり、彼女を見上げる。

「おはよう、ジーン。起こしてくれてありがとう」
「おはよう。そして、どういたしまして。……夢って?」
「……建国祭が終わってから話すわね。今は、ダンスに集中しなくちゃ!」
「……そうね。ほら、顔を洗っていらっしゃい。その間にディアを起こすから」

 ディアはまだすやすやと眠っているみたい。ジーンが一番早起きだったのね、今日は。

 彼女のお言葉に甘えて、洗面所に向かい顔を洗った。冷たい水で顔を洗うと気持ちがリセットされたような気がする。……それにしても、もしもあれが本当にハンフリーさんの言う『月の女神』の記憶だとすると、それを私に見せる意味はなんなのかしら?

 そう考えながらタオルで顔を拭いて、スキンケアをした。今日で建国祭も最後。

 最終日のダンスは朝だけだから、気合を入れなくちゃね。

 私がじっと鏡を見つめていると、ディアとジーンの声が聞こえた。どうやら、ディアも起きたらしい。

 私と入れ替わるようにディアが来たので、「おはよう」と挨拶をした。ディアも「おはよう。今日で最後ね」と少し寂しそうに眉を下げていたのを見て、一週間続いた建国祭の最終日なのだと、改めて実感した。
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