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3章

3章79話(289話)

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 ディアは私からのプレゼントを大事そうにかかえて、笑みを浮かべた。

「建国祭が終わったら、早速読ませてもらうわね」
「ええ。明日の朝でダンスも終わりだから、最高のダンスを披露しないとね!」
「そうね。今までの中で一番のダンスを披露しましょう!」

 私たちはそう言って笑い合う。……こんな風に、誰かと笑い合うことを、あの頃の私に話したら信じたかしら?

 きっと、信じなかったと思う。二年――たった、二年。その二年間の中で、私の世界はとても広がった。

 ふと、ハンフリーさんの言葉が脳裏をよぎった。

『変だと思わなかったの? ――その魔力の高さで、生き続けられたことが』

 魔力の高い子どもの死亡率が高いということを知って、第一にヴィニー殿下の顔が浮かんだ。

 彼は魔力の他にも、巫子の力を強く引き継いでいると聞いていたし、恐らく、精霊が護衛になったのも彼の魔力を精霊が食べるためだ。

 ヴィニー殿下と私では、どちらが魔力、高いのかしら?

 ぼんやりと考え込んでいると、目の前で手を振られて大袈裟なほどビクッと肩が動いた。

「どうしたの? 意識がどこかにいっていたみたいよ?」
「ああ、うん、ちょっと……考え事をしていたの」
「そう? とりあえず、着替えてホテルに向かいましょう。身体を休めて、明日に備えなくちゃ」
「そうね。……長かった建国祭も終わっちゃうのね……」

 そう思うとなんだか切なくなるの。どうしてかしらね。

「なんだかずっと忙しかったから、寂しい気がしますわ」
「……舞姫の役目も終わるしね」

 控室で衣装から普段着へ着替えて、ホテルに向かう。ヴィニー殿下たちから渡されたバラも、建国祭が終わるのと同時に魔法が解けてしまうだろう。それがなぜか、寂しく思った。

「それで、なにを考えていたの?」
「ちょっとね、ヴィニー殿下と私なら、どっちが魔力高いのかなって気になっただけ」
「……ああ、そういえばヴィンセント殿下は魔力高いんだっけ」
「そうでしたの?」

 きょとんとした表情でディアが目をまたたかせる。そんなディアにジーンはこくりと小さくうなずく。

「ヴィンセント殿下は魔力も巫子の力も強いから、敵にすると厄介だと言われているのよね」

「敵って……」

「実際、彼の元に来た刺客しかくたちはばっさりと倒されているらしいわよ」

 私は足をぴたりと止めた。――しかく? それって図形の……というわけではない、わよね……。それじゃあ……!

「……えっと、知らなかったの……?」

 意外そうにジーンが目を大きく見開いた。首を縦に動かすと、彼女はしまった! と焦ったような表情を浮かべた。

「……聞かなかったことには」
「出来ないわね」
「……本当に、噂程度の話だからね?」

 私はガシッとジーンの手首を掴んだ。真剣な表情を向けると、ジーンは諦めたように息を吐く。

「とりあえず、外で話す話題じゃないから、ホテルに入りましょう」

 私たちの肩にそっと触れて、ディアが眉を下げながらそう言った。

 ホテルまで少し距離がある。だから、私は――……。

「ソル、ルーナ、私たちをホテルまで送って!」
「はーい」
「わかった」

 ソルとルーナに頼んで、ホテルまで一瞬で運んでもらうことにした。

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