そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章78話(287話)

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 結果から言えば、今日のダンスは大成功と言えるだろう。

 ダンスを披露するのは明日の朝で終わり。まだ終わりじゃないけれど、『舞姫』と呼ばれる私たち三人は緊張の糸が切れたかのように、控室でぐったりとしていた。

「明日で終わり……。長いようで、短い時間でしたわね……」
「建国祭が一週間続くのって、歴史上初めてのことじゃないかしら?」

 ディアとジーンが軽くストレッチをしながら口にした。

「それだけ長い歴史を刻んだということかもしれないわね」

 ウォルテア王国の歴史は長い。ディアがこの国を留学先に選んだ理由のひとつに入っているのかもしれない。

「……あ、そうだ。ディア。これ……」

 控室に戻ってから渡そうと思っていた本を、ディアに見せた。ディアは目をぱちくりと瞬かせて、「それは?」と聞いて来たので、「よかったらもらってちょうだい」と彼女に差し出す。

「え? ど、どうして?」
「エドと建国祭を歩いている時に見つけたの。ディアなら読めるんじゃないかと思って」

 ディアなら、王妃殿下の持っていたカナリーン王国の本関係もさらりと読めそうな気がするわ。王妃殿下の持っている本の中には、古代語が使われているものも多かったから。

 ……アカデミーに入学するまでの二年間、たまに王妃殿下に会いに行き、本を読ませてもらった。カナリーン王国の本を読んだところで、なにか出来るわけではないけれど、王妃殿下の好意に甘えた結果だ。

 王妃殿下は宝石眼に関するエピソードを集めていたみたいだし、私の眼が『宝石眼』であることにも関心を寄せていた。そして、二年前に『黄金の宝石眼は富をもたらす』という伝承も聞いていたから、そのエピソードも教えてもらった。

『富、をなにに当てはめるかでも、人によっていろいろ違う気がするでしょう?』

 とは、王妃殿下の言葉だ。

 そっと目元に触れると、ジーンが「どうしたの?」と首を傾げた。

「ディアなら古代語さらっと読めそうだな、と思って」

 最初に考えていたことを口にすると、ジーンが「確かに」と同意してくれた。ディアは少し戸惑ったように眉を下げる。

「……読むのに時間かかると思うわ」
「そう? 私よりはサクッと読めると思うわ」

 なにせ、私にはその古代語がさっぱりわからないから。

「でも、どうしてそんなことを?」
「……あ、ちょっとね。王妃殿下にカナリーン王国の本を読ませていただいていたから……」
「カナリーン王国の本を?」
「ええ。歴史書、というよりも考察や小説、自伝が多かったけどね」

 カナリーン王国は滅んだ。だから、その国のことを書いてあっても、なにが事実でなにが創作なのかはわからない。

 ――それでいいと、思っている。

 歴史はきっと、人の手によって変えられるものだから。信じたい歴史を信じるしかないのよね。
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