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3章
3章76話(286話)
しおりを挟むエドはにこにこと上機嫌でぎゅっとヴィニー殿下の手を握り、私に顔を向けた。
「リザ姉様は本当にいいの?」
「ええ、私にはエドからもらったぬいぐるみがあるもの」
ぱちくりと目を瞬かせたエドは、嬉しそうに口元を綻ばせて「そっかぁ」と納得したように呟いた。
「他の場所も見てみましょう?」
「うん!」
ぬいぐるみを売っていた場所から離れて、エドとヴィニー殿下と一緒に建国祭を楽しんだ。普段、こうして出歩かないから、余計に新鮮に感じるのよね、きっと。
エドはあまり外に出ないようで、服などもデザイナーを屋敷に招いて作っているから、こんな風に自分の目で街を歩くというのは、年に数回らしい。以前、それを聞いた時は驚いたけれど、一番驚いたのはエドの言葉だった。
『だって、ぼくまで行っちゃったら、お母様たち寂しいでしょ?』
と、あどけない表情で言ったから……。
シー兄様は騎士団に入団していて、魔物討伐のために遠征してなかなか家に帰ってこられない時もあったそうだし、アル兄様と私はアカデミーに入学して、滅多なことではアンダーソン邸に行かなくなった。
だから、エドはエドで考えて家に残っているんだなぁと感心したのよ。
「リザ姉様?」
「あ、ううん。なんでもないの。ところで、エド、楽しい?」
「うん!」
エドが楽しいのなら、良かった。エドはそんな私に対して、心配そうに眉を下げてじっと見つめてきた。
「……リザ姉様は、楽しい?」
「もちろんよ。エドと一緒にいられるのだもの」
ホッとしたようなエドの表情に、ほんの少しだけ首を傾げた。ヴィニー殿下が「あっちにも行ってみようか」と別の場所を指した。
ヴィニー殿下が選んだのは、本屋だった。彼らしいと言えば、彼らしいのかもしれない。古本も置いてあるようで、私では読めない文字の本もあった。……もしかしたら、ディアなら読めるかも?
そう考えて一冊の本を手にしてみた。
「リザ姉様、それなぁに?」
「なんだろう……? ディア……お友達ならわかるかも」
「そうなんだ?」
たぶん、と答えるとヴィニー殿下がひょいと私が手にした本を覗き込んできた。そして、目を瞬かせて、「確かにクラウディア王女ならわかるかも」と呟いた。
「もしかして、ヴィニー殿下も読める、の?」
「うん、前に読んだことあるけど、結構面白い内容だったから、クラウディア王女も楽しめるかもしれないね」
「じゃあ、私、この本を購入してきますね。エド、ヴィニー殿下と一緒にいてね」
「はぁい」
店員の元に向かい、本を購入した。ディアへのプレゼントだから、包装をしてもらい、リボンで飾ってもらった。ディア、喜んでくれたらいいなと思いながら、ふたりの元に戻ると彼らは真面目な表情で本を選んでいた。
「なにか欲しい本はあった?」
エドに話しかけると、絵本と童話を数冊並べて悩んでいるのが見えた。
「全部買うよ?」
「ダメ! さっきぬいぐるみ買ってもらったもん」
きっぱりとそう言うエドに、ヴィニー殿下は「別に気にしないのに」と呟いていた。
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