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3章
3章75話(285話)
しおりを挟むありがとう、と笑顔で伝えると、彼らは和んだように表情を綻ばせた。そして、エドが私に向けて手を伸ばす。その手を取ると、じっとヴィニー殿下を見て、同じように手を伸ばした。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
「うん!」
きゅっとヴィニー殿下と手を繋いだエドは満足げに微笑む。それを見たヴィニー殿下が優しく言葉を掛け、私たちは歩き出した。
こうして手を繋いでいると、あの日のことを思い出すわ。アル兄様と私、お母様と一緒に手を繋いだ日のことを。王宮に行くためにドレスを買いに行った日だった。あの時は私
が真ん中だったけど、今はエドが真ん中だ。
「どうしたの?」
「え?」
「なんだか懐かしそうな表情をしていたから」
繋いでいないほうの手で頬に触れる。そんなに顔に出ていたかしら。そうだとしたら、少し気恥ずかしい。
「いえ、ただ……。二年前にこうやって、アル兄様とお母様と一緒に歩いたな、と思って」
「ああ、なるほど。それは懐かしいね?」
納得したようにヴィニー殿下はうなずき、前を向いた。じっと私のことを見上げるエドに、「エド?」と声を掛けると、彼は上機嫌そうに足を弾ませながら歩いた。
「あ、リザ姉様、ぬいぐるみ!」
「え? どこ?」
「あそこ! 可愛いねぇ」
エドは目をキラキラとさせながら声を出す。ぬいぐるみ? と辺りを見渡すと、確かに売っていた。エドは本当にぬいぐるみが好きなのね。
「近くに行ってみようか?」
「いいの?」
「もちろん!」
わぁい、と素直に喜ぶエドがとても可愛かった。近付いてみると、結構な大きさのぬいぐるみが並んでいた。エドは目を輝かせて、クマのぬいぐるみ(特大バージョン)を見ている。
すっぽりとエドを包み込めるような大きさだ。
「エド、あれが欲しいのか?」
「うん。大きくて可愛い!」
「そっか、じゃあ……」
ヴィニー殿下は店主に声を掛ける。エドと私が顔を見合わせていると、サクサクと購入を決め、受け取りをアンダーソン邸に指定した。
「あ、ありがとうございます! 早速手配しますね!」
店主は嬉しそうに白い歯を見せ、私たちが止める間もなくあっという間に購入してしまった……。
「ヴィ、ヴィニー殿下?」
「エドは僕にとっても弟のような存在だし、建国祭のほとんどを寝込んでしまっていたからね」
「いいの?」
「うん。ちゃんと治って良かったね、エド」
「ありがとう!」
確かにエドもヴィニー殿下を兄のように慕っているけれど、本当に良いのかしら? と私が彼を見ると、ヴィニー殿下はその視線に気付いて「リザにもぬいぐるみ買おうか?」と首を傾げて聞いてきた。
私がエドのことを羨ましく思った、と考えたのかしら?
「あ、いえ、私の分は大丈夫です」
丁重に断ると残念そうに肩をすくめられた。
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