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3章
3章68話(278話)
しおりを挟む「おっと、そろそろ戻らないと。エドたちと合流する予定なんだ」
「あ、アル兄様。エドに『楽しんでね』と伝えてください」
「わかった。リザも、ダンスを楽しんでね」
「はい!」
アル兄様はエドと合流しに、ヴィニー殿下は「送るよ」と控室まで一緒に歩いた。控室につくと、「それじゃあ」と去って行く彼に向かい、思わず「ヴィニー殿下!」と呼び止めてしまった。
「ん?」
「あ、えっと……。送っていただき、ありがとうございました」
そう言って頭を下げると、ヴィニー殿下はぽんと私の頭に手を置いた。そして、くしゃりと撫でる。手が離れて、顔を上げると彼は優しく微笑んでいた。
「気にしないで。それじゃあ、ダンス楽しみにしているね」
「は、はい……!」
去って行く姿を見ながら、どうしてヴィニー殿下のことを呼び止めてしまったのだろう? と首を捻った。とりあえず深呼吸をしてから控室に入る。ジーンとディアが私に気付いて、顔を上げた。
「アルフレッド様たちは?」
「エドと合流するって」
「じゃあ、気合を入れて用意しないとね!」
ジーンがワクワクとした表情を浮かべた。……そういえば、ジーンとディア、とても綺麗に着飾っている……。
「リザの弟……エドワードくんが見るのでしょう? わたくしたちにも気合が入るというものよ」
「……ありがとう、ふたりとも。最高のダンスを見せたいわ!」
「もちろんよ。さ、こっちに来て、気合を込めてメイクするわ!」
ジーンに近付くと、ディアが私の衣装を用意してくれた。まず衣装に着替えてから、すとんと椅子に座る。
ふわりと私の首元にメイクケープを掛けて、ジーンは楽しそうにメイク道具を用意し、
「それじゃあ始めるわね」と嬉々としてメイクを始めた。
「目を閉じてね」
「うん」
ジーンに言われて目を閉じる。ブラシのふわふわとした感触が少しくすぐったかった。時間はそれほど経っていないと思う。それでも、なんだか時間が長く感じられた。
丁寧に、丁寧に、触れられる。目元や唇にもなにかを塗られているような感覚。
一応、ダンスの時は自分でもメイクをしているのだけど、やはりジーンに任せたほうが一番きれいになれる気がする。
ジーンもいろいろ出来てすごいなぁ……。と考えていると、ジーンの「もう良いわよ」という声にゆっくりと目を開ける。ディアが手鏡を渡してくれた。
そっと手鏡を覗き込んでみて驚いた。
人ってメイクでこれだけ変われるのね、と。いつもよりもぱっちりとした目に、潤っている唇。ぎゅっと手鏡を握り、ついいろんな角度から見てしまった。
「すごいわ、ジーン。こんなに変われるものなのね」
「リザはナチュラルメイクが主だったものね。今回は目立たせようと思って気合いを入れたわ」
パチンとウインクするジーンに、私は「ありがとう」と笑顔を浮かべた。きっと最高のダンスをエドに見せられるわ。
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