そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章66話(276話)

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 私たちが控室の前に立っていると、ディアも姿を現した。アル兄様と一緒だ。アル兄様は私たちを見て、瞬時になにかを察したかのように、私の隣に立った。

「リザ、ダンスまでまだ時間があるだろう? 兄様に付き合ってくれない?」

 普段のアル兄様なら絶対に自分のことを『兄様』と呼ばないだろうな、なんて思いながらも、うなずいた。

「ジーン、ディア、私ちょっとアル兄様に付き合うね」
「え、ええ。行ってらっしゃい」
「アルフレッド様、ありがとうございました」

 アル兄様、ディアとなにかを話したのかしら?

 軽く手を振って私とアル兄様は歩き出す。きょろきょろと周りを見渡すと、「ヴィー」と小さくヴィンセント殿下の名を呼んだ。

「やあ、お帰り、アル。そして今朝ぶりだね、リザ」
「はい。ヴィニー殿下」
「あー、やっぱり他国の王女様と話すのは緊張する!」

 アル兄様はぐーんと手を上に伸ばして、それから深呼吸をするように息を大きく吸って、吐いた。

「そう? 彼女、あんまり王女っぽくないと思うけど」
「同じ王族だからそう言えるんだろ~」
「いやいや、アルだって王族の血が流れているからね?」

 ぽんぽんと言葉を交わすアル兄様とヴィニー殿下。ディアが王女っぽくないってどういうこと?

「ディアが王女っぽくないって……?」
「あ、えーと。なんか自信があまりなさそうな感じだったから」

 ぽりぽりと人差し指で頬を掻くヴィニー殿下に、私は普段のディアのことを思い浮かべた。

 ……そう、かな?

「貴族っぽさはあるんだけどね。王族としての自信は感じないなぁ。まあ、あれじゃあ仕方ないかなとは思うけど……」
「……たんですか?」
「どちらかと言えば、勝手に視た、というか流れ込んで来た、に近いかな」

 巫子の力が発動しちゃったらしい。

「それは……」

 なんて言えばいいのかわからなかった。巫子の力はコントロールしていても不意に視えるようだから。

「久々に感情の揺れ幅がすごい人を見たね」
「ね。ひとつ言えるとしたら、彼女には絶対的な理解者が、この国で必要になるだろうな、ってこと」
「そしてその人物が近くにいそうってこと」

 ディアの絶対的な理解者が、近くに居るってこと……よね。私は顎の下で両手を合わせて明るく声を出した。

「なら、その人とディアが出会えば……!」
「いや、もう出会っているんだよね」
「しかも、僕らが良く知っている人」
「……え?」

 私たちが良く知っている人? と首を傾げると、アル兄様が私の耳元で囁いた。

「シリル兄様だよ」

 その言葉を聞いた瞬間、私はきっと大きく目を見開いただろう。えええええっ? と大声を上げそうになったのを、慌てて自分の口を塞ぐように手で覆った。

「ほ、本当、ですか?」
「――こればかりは、本人たち次第ではあるんだけど」
「僕とヴィーが同時に視たってことは……ねぇ?」

 アル兄様とヴィンセント殿下は、同時に肩をすくめた。

 ……まって、巫子の力ってそんなこともわかるの?
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