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3章

3章64話(274話)

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「そうよ。だってあなたが一番ヴィンセント殿下と親しいもの」
「そう?」

 こくり、とジーンはうなずいた。ココアをもう一口飲んで、私を見る。真剣な表情で見つめられて、私は首を傾げた。

「第一、第二王子にはすでに婚約者が決まっているの。婚約者を決めていないのは、第三王子であるヴィンセント殿下だけ。ついでに言えば、シリル様の年齢まで婚約者が決まっていないのも珍しいわ」

 ……それは、そうだろうな、とは思っていたけど……。

「それが許されるのが、アンダーソン一家って感じよね」

 小さく口角を上げるジーン。私はベンチの背もたれに身を預けるように寄りかかり、空を見上げた。

「って、ジーンも婚約者いないじゃない」
「まあ、そうなんだけど。求婚の手紙はたくさん来るわよ?」
「わぁ……」

 そう言えば、その手の手紙は一度も見たことがないな。二年間、ティーパーティーに参加したことはあるけれど、男性と知り合うことはなかったし……。

「でも、そろそろ決めなきゃいけない年齢よねぇ……。私のことを理解してくれる人を探さないと」

 頬に手を添えてゆっくりと息を吐くジーンに、私は「そう、ね……」と少し複雑な気持ちで同意した。貴族の令嬢である以上、結婚は義務だろう。でも、『仕方ないから』で決めて欲しくないなぁ、なんて……わがままかしら。……わがままよね。

「出会えると良いわね、そんな人と」
「ええ。どうせなら理想は高くしないとね!」

 ……ジーンの理想の高さって、どのくらいかしら? 少し気になったけれど、せっかくの温かいココアが冷めてしまう前に飲もうと、こくこく飲み始めてしまったので、深くは追及出来なかった。

「さて、お昼のダンスは気合入れないといけないんでしょ?」
「え、ええ」

 ジーンはすくっと立ち上がり、私へ手を伸ばした。彼女の手を取ると、立ち上がらせた。

「なんか、ごめんね。変なこと喋っちゃった」

 眉を下げて微笑むジーンに、首を横に振った。婚約者に関しては、私が口を出せることでもないだろうし、話すことで自分の考えが纏まることもあるのだし、……そういう意味で、私が役立ったのなら、良いのだけど。

 でも、本当、私たちくらいの年齢になると、考えることが増えていくのよね……。

「自分のことで精いっぱいだったけど、私もアンダーソン家のためになにが出来るのか考えないとなぁ」
「エリザベスの家はいろいろ規格外だけどね」

 くすっと笑うジーンの顔は、少し晴れ晴れとしていて、だいぶ気持ちが楽になったのかな? と少し安堵した。

「巫子の力については、私もよくわかっていないけどね」
「わかっているのは当事者だけだろうからね」

 小さくうなずいた。……私を助けてくれたアル兄様、魔力のコントールの訓練に付き合ってくれたヴィンセント殿下。二人にとても、感謝しているの。

 私が役立つ日が、来るといいなぁ……。
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