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3章

3章62話(272話)

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「それじゃ、僕らはこれで。がんばってね、みんな」
「はい、がんばります!」

 クマのぬいぐるみの腕を振るヴィニー殿下に、私たちも軽く手を振り返した。それから控室に入り、衣装に着替えてステージへ向かう。

 ――エドの声を聞いたからかしら。なんだか、やる気に満ち溢れたように気力が湧いて来たわ。……ふふ、単純ね、私。

 でも、その単純さが大事なのかもしれない。

 みんなと過ごす毎日が好き。

 だから、こうやってがんばれるのよね。

「行きましょう、エリザベス、ディア」
「ええ、ジーン」
「今日もがんばりましょうね」

 見ている人たちに、良い思い出が出来るように。

 私たちは顔を見合わせて、うなずきあった。

 気合いが入ったおかげか、昨日よりも動きが良かったと思う。でも、さすがに少し疲れてきた気がするわ。

「お昼にはエドワード様が見に来るのでしょう?」

 朝のダンスが終わってから、ディアが声を掛けてきた。

「ええ。病み上がりだから、今日はダンスを見に来るだけだと思うわ」
「そう。弟がいるってどんな感じかしら?」
「ディアにはいないの?」

 私たちが知っているディアの情報は、十四番目の王女と言うことと、おばあ様がとても良い人だった、くらいかしら。

「ええ、わたくしが末のはずよ。……もしかしたら、わたくしが留学しているうちに増えているかもしれないけれど」

 うふふ、と口元を隠すように手で覆うディアに、私とジーンは顔を見合わせた。

「その、なんというか……。元気な方なのね……?」
「そうね、一体どのくらい側室がいるのか、わたくしも知らないのよね」
「……それはまた……」
「王位継承権は男子だけ?」

 気になったのか、ふと顔を上げてジーンがディアに尋ねた。ディアはうなずく。この国も王位継承権は男性のみだったはず。女王が治めている国もあると思うけど……。

「じゃあ、留学期間が終わっても、この国に住めるの?」
「……え?」

 ぱちくりとディアが瞬かせた。そして、そのことは考えていなかったのか、頬に手を添えて首を傾げた。

「……考えたこと、なかったわ」
「これを機会に考えてみると良いわ。結婚相手を探してもいいだろうし」
「け、結婚相手?」
「だって、国に帰っても政略結婚させられるかもしれないじゃない?」

 ジーンが肩をすくめながら歩いた。控室に入ると、ぱたんと扉を閉じる。

「それよりは、ディアが本気で好きになったと結婚するとか、夢を追い続けるとか……。そういう道を探しても良いんじゃないのかなって」

 窺うようにジーンがディアに視線を向けた。

 ディアは椅子に座ると、真剣な表情を浮かべて、それからふっと微笑んだ。

「そうね、考えてみるわ」

 そう言うとディアはすくっと立ち上がり、衣装を着替えた。そして、控室から出て行った。

「……余計なお世話だと思うのだけどね」

 ポツリと呟くジーンに、私はぽんと彼女の肩を叩いた。
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