96 / 250
3章
3章61話(271話)
しおりを挟む私が気合を入れていると、クマのぬいぐるみの目の光が消えた。
「……あの、どうして目が光ったのですか?」
ヴィニー殿下に尋ねると、殿下は「面白いかなって」と笑った。面白いというよりも、少し怖い気がするのは気のせいかしら?
「ぬいぐるみに宝石……連絡……」
じっとジーンがクマのぬいぐるみを見つめてブツブツと呟き出した。もしかしたら、新しい商品を考えているのかもしれない。
「……すごいですわねぇ……。どこまで遠くの声が届くのでしょうか」
ディアの感心したような声に、アル兄様とヴィニー殿下は顔を見合わせた。そして、
「そういえばそういう実験はしてなかったね」とアル兄様が肩をすくめる。
「アルフレッド様もヴィンセント殿下も、作るだけ作って検証はしないタイプですか?」
ジーンの目がきらりと光る。それに驚いたようにアル兄様が一歩後ろに下がった。ずい、とジーンが近付く。
「ええっと、元々身内だけで使うような物しか考えてないし、なあ?」
「そうだね。興に乗っていろいろ作ったとは思うけど……」
……私が入学するまでの一年の間に、アル兄様とヴィニー殿下は一体どんなことをしてきたのかしら……。
「魔道具作り楽しいからなぁ」
「ね。もう延々と作りたい……。どんな魔術と組み合わせるとこういう効果があるとかもっと試したい……」
ヴィニー殿下、目が……。その、こう言ってはなんだけど、目が怖いです……。もふもふもふとクマのぬいぐるみの腕を揉んでいる姿もなかなかに怖いものがあった。だって無表情なんですもの……。
「このクマのぬいぐるみって、元々目が宝石だったのですか?」
「ううん。最初はただのボタンだったよ。それを取って、宝石を付けたんだ」
「え、アル兄様自ら?」
「まさか、やってもらったよ。一番大変だったのは、エドの説得だった」
エドのお気に入りのぬいぐるみだものね……。そりゃあ、抵抗もするでしょう。エドが『やだ!』とぬいぐるみを抱きしめている様子を想像して、少し和んだ。
「……やっぱり、リザ、なにかあった?」
「え?」
「二年間でだいぶ良くなったけど……、ちゃんと周りを頼ってる?」
こくりとうなずく。とっても頼りにしているわ、周りの人たちを。
「とはいえ、どっちかと言うと溜め込むほうだもんね」
「……そ、そんなことは……」
「ある」
二人にきっぱりと言い切られて、私は眉を下げて微笑んだ。……自覚は多少あるけれど、そんなに言い切られるほどかしら……?
「大丈夫ですよ、アルフレッド様、ヴィンセント殿下」
ジーンがすっと私と腕を組んだ。反対側の腕を、ディアが掴む。
「私たちがいますから」
「ジーンの言う通りですわ。わたくしたち、お友達ですもの!」
ジーンとディアの援護に、心の中が温かくなるのを感じる。一方通行じゃない思いって嬉しいものね。
「――ッ」
「リザ?」
「あ、いえ……。大丈夫です」
――不意に、ファロン家のことを思い出す。幸せに暮らしているから、思い出すことも少なくなった。それでも、いろいろなことが思い浮かぶのよ。困ったことに。
「今の私は、みんながいてくれるから、大丈夫」
自分に言い聞かせるように言葉にすると、ヴィニー殿下がハッとしたように私を見た。……巫子の力で視えてしまったかも。緩やかに首を振ると、彼は小さくうなずいた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
8,753
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。