そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

3章

3章59話（269話）

　……月の女神は、どうしてソルとルーナを生み出したのかしら。

　どうして、ハンフリーさんと結婚したのかしら。

　何度も『どうして？』と疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消え……、考えれば考えるほど、わけがわからない。

「……考えても仕方ないこと、かしらね」

　だって月の女神は過去の話だ。大切なのは、私がどう現在いまを生きるか。後悔のないように生きたいと願うのは、傲慢ごうまんかしらね？

　だってもう、後悔はたくさんしてきたから……。

　ぼんやりと考え込んでいると、のぼせそうになった。慌てて湯船から上がり、体を冷ます。冷たい水を飲んでホッと息を吐いた。

「上達が早いわね、ディア」
「そうかしら……？　でも、まだ三つは難しいみたい」

　私がお風呂から上がると、ディアがトスジャグリングの練習をしていた。二つのボールを器用に投げ回している。

「すごいわね……」
「あ、リザ。今日はずいぶんと長風呂だったわね」
「ちょっと考え事していたから……」

　ジーンが私に近付いて、髪の毛を乾かしてくれた。ディアはまだくるくるとボールを回している。

「……浮かない顔をしているけれど、なにかあったの？」

　こそっと問われて、緩やかに首を横に振る。なにかあったわけではない。一応、私の中では区切りのついたことだし……。

「きゃっ」

　ディアはがボールを落した。ころころとこちらに転がって来たので、ひょいと拾い上げた。私が持つには大き目なボールだ。

「ねえ、ディア。シー兄様と歩いてどうだった？」

　ディアはあからさまに顔を真っ赤にさせた。なにかあったのかしら？　とジーンと顔を見合わせる。

「と、とても紳士的に案内してくださったわ。あ、リザの話もしたわよ。なんだか、心配していたみたい」
「心配？」
「うん、元気がないように見えたって。でも、リザのことだから、大丈夫だって」

　……シー兄様、私のことを信じてくれているのね。その信頼が、嬉しかった。私がアンダーソン家の養女になってから二年。シー兄様とお会いする時間はあまりなかった。

　シー兄様は魔物討伐のために遠征を繰り返していたし、アンダーソン家に帰って来てもすぐに王宮に行ってしまっていたから。だからこそ、シー兄様が私を信頼してくれていることが、嬉しい。

　それと同時に、心配してくれていることに申し訳なさを感じた。

「シリル様って婚約者いないのよね。……というか、アンダーソン家で婚約者がいる人って……」
「全員いないわね……」

　シー兄様も二十歳になり、ますます縁談の話が出てくるだろうし、アル兄様にだって来ているはずだ。エドは……どうかしら。私にも話が来ているとかいないとか……。

「……そういうジーンとディアは？」
「私はまだ考えられないわね。自分で事業したいし……」
「わたくしも……。遺跡とか巡りたいもの……」
「結婚を意識しているのはイヴォンくらいかもね」

　それも、プロポーズをされてからだろうけど……。イヴォンとハリスンさんがうまくいくといいなって思う。