そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章56話(266話)

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「めーちゃんの魔力は他の人と違う。彼女の魔力そのものだ。もしも生まれ変わるなら、人間になりたいっていう願いが、叶えられたんだね、中途半端に」
「中途半端……?」
「人間と女神の魔力が同じだと思う?」

 ハンフリーさんが首を傾げて問う。……そんなの、私にわかるわけがない。じっと彼を見つめると、ハンフリーさんが微笑んだ。

「その姿、もっと大きくなれば彼女そのものだ。銀髪に黄金の宝石眼」
「……どうして、私が『月の女神の生まれ変わり』だと思うの?」

 私の問いかけに、ハンフリーさんは目を瞬かせた。そして愛おしそうに空を見上げる。同じように空を見上げると、うっすらと月が見えた。

「きみから彼女の気配を感じるから。カナリーン王国で、ずっと一緒に暮らしていたんだ。彼女の魔力を、覚えているよ」

 ……この人は、ずっと『めーちゃん』を探していたのだろう。でも、私にはそんな記憶、一つもない。それに、月の女神の生まれ変わりだなんて、とても信じられる話じゃない。

「……あなたは私に、どうして欲しいの?」
「恋人がいないのなら、付き合って欲しかったけど……。今、めーちゃんの心には、違う人がいるみたいだし、どうしよう?」

 困ったように眉を下げるハンフリーさんに、私は首を傾げた。私の心に、違う人がいるって……?

「オレはね、きみが幸せであるのなら、それでよかった。カナリーン王国でオレが死ぬとき、ずっと泣いていたから……」

 月の女神は、きっとハンフリーさんのことを心底愛していたのね。亡くなる時まで一緒にいたんだ……。

「もしも生まれ変わったら、人間に生まれ変わって、人と同じスピードで生きたいって泣いていたんだよ。……めーちゃんは、オレらが成長していく間、不老のままだったから……」

 人間と女神の寿命が同じわけないものね……。ぎゅっと胸元に手を置いて、服を握りしめる。

「変わらないものと言ったら、精霊であるソルとルーナくらいだろう。ああ、エルフの寿命も人間よりは長いか」

 ハンフリーさんが懐かしむように目元を細める。ソフィアさんのことを知っているのかもしれない。彼女は、カナリーン王国の最初と最期を知っているようだったから。

「生まれ変わって驚いたのは、カナリーン王国が三百年も続いていたことかな」
「……『も』?」
「だって、あそこ、寄せ集めの魔術師だけで行った未開の地だったから。要するに、厄介者払いの場所。そこで、めーちゃんと出会ったんだよ。オレが一目惚れして、結婚までこぎつけたんだ」

 ……本当かどうかはわからないけれど、もしも本当だとしたら、かなり行動派の魔術師だったのね……。私が少し感心していると、ふと気になる言葉を思い出した。

「未開の地が、王国になったの?」
「そうだよ。ちなみに初代の王はオレとめーちゃんの子」

 月の女神に子どもがいたの!? と驚いて目を丸くする。

 ……待って、じゃあ、カナリーン王国は……人間と月の女神のハーフがいるということで……。血は薄くなっているだろうけれど、魔力が高い子どもが生まれるのは、月の女神の遺伝子が入っているから……?
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