そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章50話(260話)

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 ジェリーが「愛娘の、刺繍……」とジーンの言葉を繰り返して、それから小さく笑った。

 迷いがなくなったのか、彼女は「そうですね」と明るい表情を見せて、店員にネクタイピンとカフスのセットを包装して欲しいと伝えた。

 店員はこころよく引き受けてくれて、綺麗に包んでくれた。
 小さな袋に入ったプレゼントを、ジェリーは大事そうに両手で受け取った。

「……そういえば、お父様とお母様の結婚記念日にプレゼントって、したことないわ、私……」

 ハッとしたように顔を上げて、私はマリアお母様とジャックお父様の結婚記念日に、プレゼントをしたことがないことにしゅんと肩を落とした。

「あら、そうだったの?」

 ジーンが意外そうに目を瞬かせた。

 私はこくりとうなずく。一年に一度、お母様とお父様が朝から出掛ける時がある。
 帰りは翌朝で、どこに行っているのだろう? とリタに聞いたことがあるけれど、リタは「お泊りデートですよ」と微笑んでいた。

「……結婚記念日に屋敷にいないみたいで……。屋敷の人たちは、『二人きっりの時間が最高のプレゼントなんですよ』って」
「あら、それも素敵ね。マリア様もジャック様も、二人きりで過ごしたい、なんて本当に愛し合っているのね……」

 ほう、とジーンが頬に手を添えて、目をキラキラと輝かせた。

 私から見ても、お母様とお父様は愛し合っているように見える。ただ、仕事モードに入るお母様とお父様は、それまでの甘い雰囲気をバッサリと断ち切って、仕事をしている……気がするわ。

「そう言えば、アンダーソン公爵はどのようなことをしているのですか?」
「えっと、なんだかいろいろやっているみたいだけど……。お父様は主に、戦闘の仕方? を教えているみたい」
「お強いのですか?」
「私はお父様が本気で戦っているところを、見たことはないわね……」

 大きな身体のお父様。使っている武器は大きな剣で、私では持ち上げることが出来なかった。

 エドはもちろん、アル兄様もシー兄様も持ち上げられなかった。

 アル兄様は『アレを持ち上げて自由自在に振るえるのはお父様だけだよ』と、呆れたような……それでいて誇らしげに言っていたことを思い出しくすっと笑う。

「リザ? どうしました?」

 いろいろと見て回っていたディアが、私の表情を見て首を傾げた。

「あ、ううん。なんでもないの。ただ……そう。アンダーソン家の人たちはみんな、家族のことを大切に思っているなぁ、って」
「……貴族にしては珍しいくらいの家族愛があるわよね」

 納得したようにジーンが言う。

「私の家も中が良いほうだと思うけれど、アンダーソン家ほどではないと思う。ただ、他の貴族たちの家庭を見ると、いろいろあるみたいよね……」

 ……きっと誰でも、言わないだけでいろいろなことを抱えているのよね……。
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