そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章49話(259話)

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 私は安心させるようにジェリーの手を取って握った。ジェリーは私のことをじっと見つめたけれど、すぐにふふっと微笑んだ。
 私も微笑みを返すと、彼女の不安に揺れていた瞳がしっかりと私を見つめた。

「ディア、ここがそのお店?」
「ええ、以前足を運んだ時に、いろいろなものがあるなぁって思って、みんなで来てみたかったの」

 ディアがほんの少し頬を染めてお店を見上げた。
 私たちもお店を見上げる。太陽の光を反射してきらりと輝いているように見える……。

「……なんだか、すごいお店ですね……」
「ええ、昔からあるお店なんですって。建国祭のために、いろいろな物を取り扱うらしいので……」

 あるんじゃないかな、と。ディアが続けた。
 私たちもうなずいて、そのお店に入ってみることにした。

「いらっしゃいませ」

 扉を開いてすぐに、カランと鈴の音が聞こえた。そして、カウンター近くに居た店員が声を掛けてくる。

「ごきげんよう。お邪魔しますね」
「おや、あなたはクラウディア様! 舞姫のダンス、見ましたよ。……って、舞姫たちがいらっしゃるとは……」

 ディアに対して友好的に会話をする店員が、私たちに気付いて目を丸くした。

「それはありがとうございます。最後まで頑張りますので、よろしければまた見にいらしてくださいね」

 にこっと微笑むディアに、店員は「はい」と和やかに返事をした。

「今日はネクタイピンを見せていただきたいの。友人のご両親が結婚記念日を迎えるそうで……」
「結婚記念日ですか、それはおめでとうございます。ネクタイピンでしたら、こちらになります」

 と、ネクタイピンのところまで案内してくれた。
 私たちがネクタイピンを眺めていると、ジェリーが一点を見つめていた。

「ジェリー?」
「あ、このネクタイピンとカフスのセット、シンプルで格好いいなって……」

 私もジェリーの見ているネクタイピンとカフスのセットに視線を落とす。

「……確かにシンプルね」
「はい。お父様に似合いそうだなぁって」

 小声で話す私たちに、ジーンが「どうしたの?」と声を掛けてきた。
 私たちがシンプルなネクタイピンとカフスのセットを指差すと、ジーンの瞳がきらりと光り、そのセットと値段を見て「ふむ」と小さく呟く。

「……お得よ、これ」

 ジーンがこっそりとジェリーに教えていた。

「そうなんですか……?」
「ええ……というか、ここに卸しているプラチナ、マクラグレンが関わっているもの。職人技が光っているから、とても良いものだと思うわ……」

 うっとりとしたように頬に手を添えてネクタイピンとカフスのセットを見るジーン。

「……でも、母と父で値段の差が……」
「あら、このセットには『愛娘の刺繍』は出来ないわよ?」

 パチン、とウインクするジーンに、ジェリーは目を瞬かせた。
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