そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

文字の大きさ
上 下
81 / 252
3章

3章44話(254話)

しおりを挟む

「……今年は、その、本当にいろいろなことがあって両親たちも苦しんだと思うんです。ですから、楽しい思い出も作って欲しくて……!」
「……いい子ね」

 ぽそり、とディアが呟いた。私は同意のうなずきを返した。
 マザー・シャドウに振り回された被害者であり、そのことを気に病んでもいたジェリーが、こうして私たちに相談してくれる。
 私たちのことを信用してくれているから。
 そのことが、なんだか嬉しい。
 もしかしたら、ジュリーともこんな風に過ごせたんじゃないか、と思うと少し胸が痛くなるけれど……。

「思い出……」
「あ、それなら、こういうのはどうかしら?」

 ぽんと両手を叩いてディアがにっこりと笑った。

「ディア、何か案があるの?」

 ジーンに尋ねられて、ディアはぴっと人差し指を立てた。

「――わたくしの案は――……」


☆☆☆


「――というのはどうかしら?」

 ディアがワクワクとした表情でジェリーを見た。
 ジェリーは目を瞬かせて、それから困惑したように眉を下げた。

「わ、私に出来るでしょうか……?」
「大丈夫、絶対に出来ますわ!」

 ぐっと拳を握って断言するディアに、ジェリーはやっぱり困惑しているようだ。
 ジーンが「ディアは面白いことを考えるわねぇ」と感心していた。

「ちなみにご両親の結婚記念日はいつなの?」
「建国祭の最終日です。そんな短い期間で、覚えられるでしょうか……?」
「簡単なものなら大丈夫だと思う」
「わ、わかりました。がんばってみます……!」

 意を決したように顔を上げて、ジェリーは私たちを見た。

「それじゃあ、少々お待ちくださいね」

 ディアが鞄のところまで行って、ごそごそとある物を取り出して戻ってきた。

「使い方はわかりますか?」
「はい。大丈夫です。この手の物は、よく見ますから」
「では、これを見て練習をしてください。最終日なら、朝のダンスが終わればわたくしたちはフリーになりますし、ね」

 ジェリーはディアが渡したものをぎゅっと大事そうに包み込み、こくりとうなずいた。

「本当にありがとうございます。……それと、もうひとつ、わがままを聞いてください」

 ジェリーはそう言って、私たちを見渡した。

「――買い物に、付き合ってはくれませんか……?」

 おずおずと窺うようにそう言うジェリーに、私たちは目を瞬かせて、それから「もちろん!」と返事をした。
 そして私たちはお昼のステージまでの自由時間、ジェリーの買い物に付き合うために、控室から出ていった。
 ジェリーは嬉しそうだ。
 いろいろあったけれど、こんな風に笑い合えるようになって本当に良かったと思う。
 こういう日々がずっと続けばよいのに――……。
 そう考えながら、前を向くとみんなが私のことを待っていてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。