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3章
3章44話(254話)
しおりを挟む「……今年は、その、本当にいろいろなことがあって両親たちも苦しんだと思うんです。ですから、楽しい思い出も作って欲しくて……!」
「……いい子ね」
ぽそり、とディアが呟いた。私は同意のうなずきを返した。
マザー・シャドウに振り回された被害者であり、そのことを気に病んでもいたジェリーが、こうして私たちに相談してくれる。
私たちのことを信用してくれているから。
そのことが、なんだか嬉しい。
もしかしたら、ジュリーともこんな風に過ごせたんじゃないか、と思うと少し胸が痛くなるけれど……。
「思い出……」
「あ、それなら、こういうのはどうかしら?」
ぽんと両手を叩いてディアがにっこりと笑った。
「ディア、何か案があるの?」
ジーンに尋ねられて、ディアはぴっと人差し指を立てた。
「――わたくしの案は――……」
☆☆☆
「――というのはどうかしら?」
ディアがワクワクとした表情でジェリーを見た。
ジェリーは目を瞬かせて、それから困惑したように眉を下げた。
「わ、私に出来るでしょうか……?」
「大丈夫、絶対に出来ますわ!」
ぐっと拳を握って断言するディアに、ジェリーはやっぱり困惑しているようだ。
ジーンが「ディアは面白いことを考えるわねぇ」と感心していた。
「ちなみにご両親の結婚記念日はいつなの?」
「建国祭の最終日です。そんな短い期間で、覚えられるでしょうか……?」
「簡単なものなら大丈夫だと思う」
「わ、わかりました。がんばってみます……!」
意を決したように顔を上げて、ジェリーは私たちを見た。
「それじゃあ、少々お待ちくださいね」
ディアが鞄のところまで行って、ごそごそとある物を取り出して戻ってきた。
「使い方はわかりますか?」
「はい。大丈夫です。この手の物は、よく見ますから」
「では、これを見て練習をしてください。最終日なら、朝のダンスが終わればわたくしたちはフリーになりますし、ね」
ジェリーはディアが渡したものをぎゅっと大事そうに包み込み、こくりとうなずいた。
「本当にありがとうございます。……それと、もうひとつ、わがままを聞いてください」
ジェリーはそう言って、私たちを見渡した。
「――買い物に、付き合ってはくれませんか……?」
おずおずと窺うようにそう言うジェリーに、私たちは目を瞬かせて、それから「もちろん!」と返事をした。
そして私たちはお昼のステージまでの自由時間、ジェリーの買い物に付き合うために、控室から出ていった。
ジェリーは嬉しそうだ。
いろいろあったけれど、こんな風に笑い合えるようになって本当に良かったと思う。
こういう日々がずっと続けばよいのに――……。
そう考えながら、前を向くとみんなが私のことを待っていてくれた。
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