そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章43話(253話)

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 翌日、朝のダンスを終えて控室に戻り着替えをしていると、扉がノックされた。
 誰かしら? と首を傾げて「少々お待ちください」と声を掛けると、「はい!」と元気よく言葉が返って来た。
 ジェリーの声だった。
 私たちは顔を見合わせて、それから急いで着替えを終えた。

「どうぞ」

 そう声を掛けると、ジェリーがひょっこりと顔を覗かせる。

「ごきげんよう、リザお姉様、ジーン様、クラウディア様」

 中へ入って小さく頭を下げたジェリーに、私たちも挨拶を返した。

「どうしたの?」
「あの、実は……折り入ってお願いがありまして……」

 と、手をもじもじさせながら私たちを見るジェリー。
 お願いってなにかしら……?

「私は構わないけれど……」

 ちらりとジーンとディアに視線を向ける。彼女たちもこくりとうなずいた。

「あ、ありがとうございます!」

 ぱぁっと表情を明るくさせて、ジェリーは私たちに近付いてきた。
 一体、どんなお願いなのかしら?

「それで、お願いというのは?」

 ジーンがジェリーのことをじっと見つめながら尋ねた。
 彼女は、ぎゅっと胸元で手を組んで「知恵をお貸しください!」と楽しみ込んできた。
 知恵? と目を丸くする私たち。

「実は、両親の結婚記念日が明日なのです。……いろいろなことがあったでしょう? 今年はどうしても、両親に素敵な思い出を作って欲しくて、私なりに考えていたのですが……行き詰ってしまって。どうか、皆様の知恵をお貸しください!」

 ばっと頭を下げて頼み込むジェリーに、私たちはただただ呆然としてしまった。
 いろいろ考えて行き詰ったのは本当だろう、彼女の顔がやつれているように見えたから。

「私たちで力になれるかな……?」
「ええと、ジェリー。あなたはどんなことを考えていたのか、教えてもらっても良いかしら?」

 ジーンに肩をポンと叩かれて、ジェリーは顔を上げてこくんとうなずいた。

「私が考えたのは、両親に花束をプレゼントするとか、記念にお揃いのブローチをプレゼントするとか、食事をごちそうするとか……です。ですが、現実的に考えて、お料理はしたことがないし、花束やブローチをプレゼントするにはお金が必要でしょう? 私が使えるお金は限られているので、結婚記念日に向けてそれなりに貯めてきたつもりではあるのですが……」

 話しているうちに段々と俯いてしまったジェリーに、ジーンが優しく微笑みかける。

「素晴らしいわ、ジェリー。本当にご両親のことが大好きなのね」

 ジーンの言葉に、ジェリーは大きくうなずいた。

「はい、大好きな両親です!」

 そしてそうきっぱりと言い切ったジェリー。……あなたにも、大好きな家族がいて良かった、と私が思うのは……違うかな?
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