そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章27話(237話)

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「それはもう叶っているではありませんか」
「そうだけど……。でもやっぱり、よりも低くはなりたくないし……」

 え、と私は思わずヴィニー殿下を見た。今、殿下が口にした言葉を頭の中で繰り返す。
 そして、頬に熱が集まっていくのを感じて、私は慌ててヴィニー殿下から顔を逸らした。
 そんな私の様子を見て、ヴィニー陛下はくすっと小さく笑った。

「夜のお祭りをゆっくり見るのは初めてだね」
「……そうですね」

 一日目のことを思い出して、私は肩をすくめながら答えた。ソルが私の肩に乗り、ルーナが「抱っこ!」とばかりに飛びついて来た。精霊たちがすりすりと私に甘えように擦りついて来るのを見て、ヴィニー殿下が「精霊たちはリザのことが大好きだね」と優しい口調で言った。
 精霊たちはキョトンとした顔をしていたけれど、すぐにその言葉の肯定をした。

「主を嫌う精霊なんていない」
「ルーナ、エリザベスのこと大好き~!」
「私もソルとルーナのこと、大好きよ」

 頬に触れるソルの翼と、ルーナのふわふわの毛並みを撫でて言葉を掛けると、嬉しそうに笑う。それを見て、なんだか心がじんわりと温かくなった。

「……夢みたいって思うの」
「リザ?」
「ファロン家に居た頃は、私のことを好いてくれる人なんて居ないって思っていたから……。大好きな人たちに囲まれて、私は幸せ者ね……。なんて、考えちゃって。そう考えれば考えるほど、夢みたいって思うの」

 今でもたまに夢を見る。冷たい目で私を見るファロン家のお父様とお母様、そしてジュリー。使用人たちでさえそうだった。
 顔を火傷した時の熱さと痛さ、色彩を失った風景……。

「きっとリザは、一生分の不幸が一気に襲い掛かって来たんだよ」
「……え?」
「一生分の不幸が一気に襲ってきたから、これから先は幸せしかないと思う。……記憶はきっと、君をずっと苦しめるだろうけれど……。忘れないで、僕たちは君の味方だよ」

 ヴィニー殿下は淡々とした口調でそう言った。私は目を伏せて、「ありがとうございます」と頭を下げる。ヴィニー殿下は、「お礼を言われることじゃないよ」と明るく言った。

「ほら、せっかくの建国祭、楽しまないと」

 私の目の前に立ち、手を差し伸べるヴィニー殿下。私はその手を取って、彼の隣に立つ。ふふ、と笑い合って、夜のお祭りの様子を眺める。
 魔法でライトアップされている場所が多くて、幻想的な世界へいざなわれているようだった。
 広場を抜けて歩いていく。どこに向かっているのだろうと首を傾げると、そこには広場とは別の賑やかさがあった。

「ここは……?」
「孤児院の近くなんだ、ここ。建国祭の日にはこうやって子どもたちが作ったものを売っているんだ」

 子どもたちが一生懸命に作ったであろう刺繍の入ったハンカチや、ぬいぐるみなどが置かれていた。興味深そうに見ていると、孤児院の子……かな? 小さな子たちが「舞姫たちだぁ!」と興奮したように大きな声を上げた。
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