そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

文字の大きさ
上 下
63 / 252
3章

3章26話(236話)

しおりを挟む

 こちらを見て手を振るのは子どもたちだけではなく、大人たちも「今日のダンスも綺麗でしたよ!」と声を掛けてくれた。私たちは、繋いでいる手とは反対側の手で軽く手を振って微笑んだ。

「あ、ヴィンセント殿下だ~」

 ヴィニー殿下がその声を聞いて、私たちと同じように手を振る。その表情は少しだけ困っているように見えた。でも、どこか嬉しそうにも見えた。

「人気者ですね」
「それはリザたちのほう」

 そう言って微笑むヴィニー殿下。その表情を目にして、私はなんだかドキッとした。どうしたのかしら? 笑顔のヴィニー殿下を見たことなんて、たくさんあるのに……。

「リザ?」
「あ、えっと、これからどこに向かうんですか?」
「うーん、そうだな……。一言で言うなら、ダンス広場、かな?」

 ダンス広場? と首を傾げていると、シー兄様たちがこちらを見て口角を上げた。
 ちなみに、シー兄様の隣にはディア、アル兄様の隣にはジーンだ。自然とこの組み合わせになった。……ジーンやディアがお兄様たちと並んで歩いているのを見ると、なんだか嬉しい。そう考えていたのが表情に出ていたのか、ヴィニー殿下がぎゅっと手を握った。

「ヴィニー殿下?」
「アンダーソン家が本当に大好きなんだね。そして、友人たちも」
「え? ええ、もちろん。アンダーソン家には返しきれない恩もありますし、ディアもジーンも……大好きな友人ですもの」
「そっか」

 柔らかく、優しい声色だった。そして、その声色のままヴィニー殿下は言葉を続けた。

「リザが幸せそうで、本当に良かった。後は……そうだね、もう少し身長が欲しいところかな?」
「それは……切実に願っているのですが……」

 少しだけからかうような口調になったヴィニー殿下に、私は眉を下げて肩をすくめた。シー兄様は出会った頃、既に身体が出来上がっていたと思う。それでもじりじりと身長が伸びたと聞いたことがある。ジャックお父様の血を引いているから、もしかしたらもっと身長が伸びるかもしれない。マリアお母様に似ているアル兄様も、シー兄様よりは低いけれど成長期で一気に伸びて、成長痛がつらかった、とも言っていた。
 エドも大きくなって来たし……。きっと身長が伸びやすいのよね。これって遺伝が関係あるのかしら?

「ヴィニー殿下は、どのくらいの身長が好ましいと思いますか?」
「リザが?」
「え? あ、いえ、ヴィニー殿下自身が、です!」
「僕? あんまり考えたことはないけれど……、リザより高いほうが良いなぁ」

 のんびりとした口調でそう言われて、私は思わず吹き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。