そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章22話(232話)

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「……前世ってそんなに大切か?」

 飲み物をこくりと飲み込んだ後に、ハリスンさんが軽く首を傾げた。私とイヴォンは目をぱちぱちと瞬かせて、それから「え?」と聞き返してしまった。
 ハリスンさんは椅子の背もたれに身体を預けるようにしてから、言葉を続けた。

「なんというか……、先代の人たちが築いて来たものは大切だけど、前世の自分が今の自分ってことにはならないだろ? 魂は同じかもしれないけど、記憶もないんじゃまるっきり『別人』じゃないか?」

 私とイヴォンは目を丸くして、それから数回瞬かせて、ハリスンさんの言葉をもう一度思い返した。そして、思わずクスッと笑った。

「エリザベス嬢?」
「ふふ、申し訳ありません。ただ……、本当に、そうだなぁって思って」

 口元を隠すように手を添えて、笑い続ける私にイヴォンがそっと私の肩に手を添えた。私はイヴォンとハリスンさんに対して頭を下げた。

「ありがとうございます。話をして、なんだかスッキリしたわ」
「それなら良かった。うん、顔色も大分良くなったわね。ハリスン、私はこのままリザを送ろうと思うのだけど、あなたもついて来てくれる?」
「もちろん、マイレディ」

 そう言って恭しくイヴォンの手を取り、手の甲に唇を落すハリスンさんに、イヴォンは少し頬を赤らめて、私はそんなイヴォンたちを見てなぜか照れてしまった。ハリスンさんは本当にイヴォンのことが好きなのね、と心の中で呟いた。
 買ってもらった温かい飲み物を飲み干して、お金を払おうとしたけれど止められた。

「舞姫に奢るって経験、滅多に出来ないしな」

 とのこと。
 私はイヴォンに視線を向けると、イヴォンは小さくうなずいた。

「ごちそうさまでした」
「どういたしまして。それじゃあ、行こうか」

 イヴォンとハリスンさんに控室まで送ってもらった。私が戻ると、ジーンとディアが迎え入れてくれた。そして、イヴォンがふたりにさっきまでのことを軽く話した。

「……やっぱり行かせないほうが良かったかしら。ごめんね、止められなくて……」
「ジーンのせいじゃないよ。でも、ありがとう」

 ぎゅっと私を抱きしめてくれたジーンに、私もぎゅっと抱きしめた。ディアも心配そうに見ていたから、私はそっとディアの袖を摘んだ。

「……イヴォンたちにも話したの?」

 こくり、と小さくうなずく。そして、ジーンとディアがふたりに問いかけた。

「誰か、後をついて来なかった?」
「そんな気配はなかったよ。気付いていれば恐らく、精霊たちが警戒するだろうし……」
「……前世の話、も聞いたのよね?」

 おずおずと尋ねるディアに、「ええ」とイヴォンが答えた。
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