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3章

3章21話(231話)

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 私はハリスンさんに対して首を緩やかに振った。彼はそれを見て、立ち上がろうとしたのをやめて座り直した。

「少し、混乱していて……。あまり纏まりのない話になってしまうのだけど……」
「構わないわ。話していて纏まることだってあるもの」

 その言葉を聞いてほっとしたように息を吐くと、イヴォンとハリスンさんは私の言葉を待った。
 私は昨日と今日のことを話した。
 前世の記憶を持った人物がいたこと、その人と私が前世で夫婦であったこと、朝のステージを終えたらその人が会いに来たこと……ぽつぽつと昨日と今日のことを説明していくうちに、イヴォンたちの表情が険しくなっていった。

「……前世の記憶……」
「前世の記憶かぁ。リザは心当たりあるの?」

 恐らく、あまり信じられない話だろうに、彼女たちは真剣に考えてくれたみたいで、イヴォンに至っては神妙な表情を浮かべて首を傾げた。

「心当たり……」

 ふと脳裏によぎったのは、ジェリーの心の中での出来事。マザー・シャドウの最期。あの時確かに、『声』を聞いた。私がそのことを軽く話すと、イヴォンとハリスンさんは目を丸くして、それから顔を見合わせた。

「そんなことがあったの……」
「知らなかった……」
「あの後、ダンスの練習が始まったりして、みんなそれぞれ時間が合わなかったものね……」

 イヴォンとは同室であるけれど、あの後慣れないダンスの練習で疲れ果ててお風呂に入って寝る、を繰り返していた。それに……ダンスの練習は私たちだけではなく、イヴォンも熱心に練習していたから、寮に戻ると私たちと同じようにお風呂に入って即就寝、を繰り返していた。そのうちに建国祭も始まり、現在に至る。

「あのふたりがエリザベス嬢のことを気に掛けていたから、なにかあったのかとは思っていたけど……。まさかそんなことがあったとは」
「あのままだと、ジェリーの精神はマザー・シャドウに奪われていたと思うの。……だから、その前に助けたかった」

 その選択を後悔したことなんてない。ジェリーはきちんと受け止めて、消化した。どれだけの葛藤があったのかはわからないけれど……。それでも彼女は前に進んだ。その強さを私は称えたい。
 目元を細めて微笑む私に、ハリソンさんとイヴォンは「そっか」と優しく呟いた。

「アカデミー入学前から大変な思いをしていたんだなぁ、ジェリー嬢も」
「そうね。人はいろいろ大変なことを背負っているとは思うけど……。あなたたちの事情には本当に同情するわ……」
「本当、カナリーン王国に振り回されている感じが……ね」

 小さく息を吐いて緩やかに首を左右に振る。もう滅んだ国なのに……。
 私が小さく眉を下げて微笑むと、イヴォンたちはなにも言わずにただ飲み物を口にして、ゆっくりと息を吐いた。
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