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3章
3章20話(230話)
しおりを挟む「カナリーン王国はオレらが創った国だから、めーちゃんは最期まで残るって言っていたんだ……。オレが死ぬ時、オレはしわくちゃのおじいちゃんになっていたけど、めーちゃんは出逢った頃のままで綺麗だったなぁ……」
「……自分が亡くなる瞬間まで、覚えているの……?」
「うん? まぁね。老衰だったからぽっくりと」
そう言って無邪気に笑うハンフリーさんに、なぜかぞくりと冷たいものが背中を流れた。
「……ハンフリーさんは、カナリーン王国のことをどう思っていますか……?」
生まれ変わり、前世の記憶があるとして、以前住んでいた国が滅んでいるのは……つらいことではないのだろうか。ただ、彼の話し方ではあまりカナリーン王国に思い入れがあるようには聞こえなかった。
「必要ならまた建国すれば良い。オレと君で」
「……そんな簡単に国は作れないでしょう」
「作れるさ。オレらは昔、作ったのだから」
……一体カナリーン王国はどうやって建国されたのだろう。私はベンチから立ち上がって、ハンフリーさんに対して言葉を強めてこう言った。
「……私は、あなたの妻じゃない。クレープ、ごちそうさまでした」
ぺこりと頭を下げてその場から去った。逃げるように、走った。
どのくらい走ったのかわからない。ただ、人にぶつかりそうになってしまい、慌てて身体を避けようとしたらバランスを崩してしまった。だけど、私が転んでしまう前に誰かが私の腕を引っ張って、支えてくれた。
「あ、ありがとう……、イヴォン? と、ハリスンさん……」
転ぶところだった私を助けてくれたのは、ハリスンさんだったようだ。イヴォンは私を見るなり、そっと頬に触れてハリスンさんに視線を向けた。
ハリスンさんは私からそっと手を離して、「大丈夫か?」と優しい声で問いかけて来た。
「は、はい。助かりました」
「リザ、あなた顔色が悪いわよ。少し休みましょう?」
イヴォンが心配そうに私の顔を覗き込む。私が後ろを気にしてちらりと振り向けば、ソルとルーナがぴょこんと現れて、何を言うでもなくただ淡々と魔法を使った。
「……行きましょう」
「……うん」
イヴォンに支えられるように手を引かれながら歩く。近くのカフェに入り、ハリスンさんが注文をして、私たちは空いている席に座った。
「……ゆっくり呼吸して。そう、上手よ」
私の顔色はどのくらい悪いのだろう。イヴォンの言うようにゆっくりと呼吸を繰り返すと、段々と気持ちが落ち着いて来た気がする。そのうちに、飲み物を持ったハリスンさんが近付いて来た。
「はい、これ飲んで落ち着いて」
「……ありがとうございます」
飲み物を受け取って、静かに口をつけた。こくり、と飲み込むと、温かいお茶が身体に浸透していく感じがした。
「……なにがあったのか、聞いても良い?」
イヴォンが眉を下げて尋ねてきた。私はソルとルーナに視線を落とした。そして、きゅっと拳を握ってそれからじっとイヴォンとハリスンさんを見た。昨日、イヴォンたちはあの場に居なかった。私が話すかどうか迷っていると、ハリスンさんが「イヴォンにだけ話せるなら、席を外すけど……」と気遣ってくれた。
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