そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

文字の大きさ
上 下
57 / 252
3章

3章20話(230話)

しおりを挟む

「カナリーン王国はオレらが創った国だから、めーちゃんは最期まで残るって言っていたんだ……。オレが死ぬ時、オレはしわくちゃのおじいちゃんになっていたけど、めーちゃんは出逢った頃のままで綺麗だったなぁ……」
「……自分が亡くなる瞬間まで、覚えているの……?」
「うん? まぁね。老衰だったからぽっくりと」

 そう言って無邪気に笑うハンフリーさんに、なぜかぞくりと冷たいものが背中を流れた。

「……ハンフリーさんは、カナリーン王国のことをどう思っていますか……?」

 生まれ変わり、前世の記憶があるとして、以前住んでいた国が滅んでいるのは……つらいことではないのだろうか。ただ、彼の話し方ではあまりカナリーン王国に思い入れがあるようには聞こえなかった。

「必要ならまた建国すれば良い。オレと君で」
「……そんな簡単に国は作れないでしょう」
「作れるさ。オレらは昔、作ったのだから」

 ……一体カナリーン王国はどうやって建国されたのだろう。私はベンチから立ち上がって、ハンフリーさんに対して言葉を強めてこう言った。

「……私は、あなたの妻じゃない。クレープ、ごちそうさまでした」

 ぺこりと頭を下げてその場から去った。逃げるように、走った。
 どのくらい走ったのかわからない。ただ、人にぶつかりそうになってしまい、慌てて身体を避けようとしたらバランスを崩してしまった。だけど、私が転んでしまう前に誰かが私の腕を引っ張って、支えてくれた。

「あ、ありがとう……、イヴォン? と、ハリスンさん……」

 転ぶところだった私を助けてくれたのは、ハリスンさんだったようだ。イヴォンは私を見るなり、そっと頬に触れてハリスンさんに視線を向けた。
 ハリスンさんは私からそっと手を離して、「大丈夫か?」と優しい声で問いかけて来た。

「は、はい。助かりました」
「リザ、あなた顔色が悪いわよ。少し休みましょう?」

 イヴォンが心配そうに私の顔を覗き込む。私が後ろを気にしてちらりと振り向けば、ソルとルーナがぴょこんと現れて、何を言うでもなくただ淡々と魔法を使った。

「……行きましょう」
「……うん」

 イヴォンに支えられるように手を引かれながら歩く。近くのカフェに入り、ハリスンさんが注文をして、私たちは空いている席に座った。

「……ゆっくり呼吸して。そう、上手よ」

 私の顔色はどのくらい悪いのだろう。イヴォンの言うようにゆっくりと呼吸を繰り返すと、段々と気持ちが落ち着いて来た気がする。そのうちに、飲み物を持ったハリスンさんが近付いて来た。

「はい、これ飲んで落ち着いて」
「……ありがとうございます」

 飲み物を受け取って、静かに口をつけた。こくり、と飲み込むと、温かいお茶が身体に浸透していく感じがした。

「……なにがあったのか、聞いても良い?」

 イヴォンが眉を下げて尋ねてきた。私はソルとルーナに視線を落とした。そして、きゅっと拳を握ってそれからじっとイヴォンとハリスンさんを見た。昨日、イヴォンたちはあの場に居なかった。私が話すかどうか迷っていると、ハリスンさんが「イヴォンにだけ話せるなら、席を外すけど……」と気遣ってくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。