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3章
3章18話(228話)
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結論から言えば、朝のダンスも大盛り上がりだった。ステージの時間は決まっているから、みんなそれに合わせて来てくれるみたい。
ダンスを終えて、控室に戻りタオルで汗を拭いてから着替え、控室を出てステージを後にしようとした瞬間、私の目の前に真っ赤な薔薇の花束が現れた。びっくりして目を丸くすると、花束の持ち主が「驚いた?」なんて軽い口調で尋ねてきた。
「……ハンフリーさん……」
「舞姫だって聞いたから。とても良いステージだったよ」
「……ありがとう、ございます」
花束を渡してくるハンフリーさんに対して、私は眉を下げてそれを受け取った。そして、ジーンとディアに視線を向ける。彼女たちはすっと私の隣に立ってくれた。
「ごきげんよう」
にこり、と微笑んでジーンが挨拶すると、ハンフリーさんは今その存在に気付いたとばかりに軽く会釈をした。
「めーちゃんの分しか花束持ってきてなかったや。ごめんね?」
「……それは別に構わないのですが……。エリザベスに何か用が?」
「うん、少し話したいと思って。あ、オレそれなりに強いから安心して。ちょっと借りていくね」
そう言うと私の手首を掴んで駆け出した。慌てたようにジーンとディアが私に手を伸ばすのが見えたけれど、ハンフリーさんのほうが上手だったようで、その手を掴むことは出来なかった。ジーンが「昼のステージには返してよ!」とハンフリーさんに叫ぶ。彼は空いている手をひらりと振った。恐らく、了承したのだろう。
どのくらい駆けていたのかわからない。ジーンもディアも見えない。それにしても、こんなに大勢の中を走っているのにひとりとしてぶつからない。そのことに酷く驚いた。周りの人たちが避けているのではなく、ハンフリーさんが避けて走っているのだと思う。
私もぶつからないように。
「――ふう、走った走った。めーちゃん大丈夫?」
「……少し、休みたいわ……」
足を止めて私へと顔を向けるハンフリーさんに対して、私はぜぃぜぃと肩で息をしていた。彼は汗ひとつ掻かず、息も乱さず平然としていて、旅芸人と言うのはとても体力が必要なのかと考えた。
「めーちゃんはステージでも動いていたもんね。ちょっと待ってて。今、甘いもの買って来るから」
私の手を離して、屋台まで向かい何かを買ってきたようだ。手にしているものを見て、私は彼と手にしているものを見た。
「あそこのベンチで食べよう。疲れた時には甘いものってね」
「……はぁ……」
なんて返事をすれば良いのかわからなくて、曖昧な言葉になった。ベンチに座って、ハンフリーさんが買ってきたクレープを受け取る。チョコバナナだった。
「オレも同じのにした。それにしてもこの国本当に広いね。建国祭に間に合って良かった」
「……そうなんですか?」
国を出たことのない私には、他の国がどのくらいの広さなのか想像もつかない。
「あれ、めーちゃんは外に出たことないのか。そっかぁ。まぁ、前も国にずっと居たしなぁ……。……あれ国って言って良いのかな……」
ダンスを終えて、控室に戻りタオルで汗を拭いてから着替え、控室を出てステージを後にしようとした瞬間、私の目の前に真っ赤な薔薇の花束が現れた。びっくりして目を丸くすると、花束の持ち主が「驚いた?」なんて軽い口調で尋ねてきた。
「……ハンフリーさん……」
「舞姫だって聞いたから。とても良いステージだったよ」
「……ありがとう、ございます」
花束を渡してくるハンフリーさんに対して、私は眉を下げてそれを受け取った。そして、ジーンとディアに視線を向ける。彼女たちはすっと私の隣に立ってくれた。
「ごきげんよう」
にこり、と微笑んでジーンが挨拶すると、ハンフリーさんは今その存在に気付いたとばかりに軽く会釈をした。
「めーちゃんの分しか花束持ってきてなかったや。ごめんね?」
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そう言うと私の手首を掴んで駆け出した。慌てたようにジーンとディアが私に手を伸ばすのが見えたけれど、ハンフリーさんのほうが上手だったようで、その手を掴むことは出来なかった。ジーンが「昼のステージには返してよ!」とハンフリーさんに叫ぶ。彼は空いている手をひらりと振った。恐らく、了承したのだろう。
どのくらい駆けていたのかわからない。ジーンもディアも見えない。それにしても、こんなに大勢の中を走っているのにひとりとしてぶつからない。そのことに酷く驚いた。周りの人たちが避けているのではなく、ハンフリーさんが避けて走っているのだと思う。
私もぶつからないように。
「――ふう、走った走った。めーちゃん大丈夫?」
「……少し、休みたいわ……」
足を止めて私へと顔を向けるハンフリーさんに対して、私はぜぃぜぃと肩で息をしていた。彼は汗ひとつ掻かず、息も乱さず平然としていて、旅芸人と言うのはとても体力が必要なのかと考えた。
「めーちゃんはステージでも動いていたもんね。ちょっと待ってて。今、甘いもの買って来るから」
私の手を離して、屋台まで向かい何かを買ってきたようだ。手にしているものを見て、私は彼と手にしているものを見た。
「あそこのベンチで食べよう。疲れた時には甘いものってね」
「……はぁ……」
なんて返事をすれば良いのかわからなくて、曖昧な言葉になった。ベンチに座って、ハンフリーさんが買ってきたクレープを受け取る。チョコバナナだった。
「オレも同じのにした。それにしてもこの国本当に広いね。建国祭に間に合って良かった」
「……そうなんですか?」
国を出たことのない私には、他の国がどのくらいの広さなのか想像もつかない。
「あれ、めーちゃんは外に出たことないのか。そっかぁ。まぁ、前も国にずっと居たしなぁ……。……あれ国って言って良いのかな……」
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