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3章
3章12話(222話)
しおりを挟む私たちもクスクスと笑ってしまった。きっと最後まで計算してやっているのだろうけど、面白かった。
「それでは、本日ラストの芸、お楽しみください!」
しゃがんでボールをパスしていた人が立ち上がり、ボールを器用に操っていた人と一緒にボールを片付けると、別の人がステージに出て来た。その人を紹介するように両手を広げてから、ステージ奥へと姿を消した。それを見送ってから、コツコツと足音を響かせて前に出る。
パッとスポットライを当てられたその人は、そう口にするとなにかを探すように大きな動きで周りを見渡した。
パチッと視線が合った、ような気がした。
「そこの銀髪・黄金目のお嬢さん! あ、背が可愛らしいほうの!」
……パッと、私にスポットライトが当てられた。びっくりして目を丸くすると、その人は「是非、最後の芸にご協力ください!」と続けて声を掛けられる。私が自分のことを指差すと、こくこくと何度もうなずかれた。
「行ってらっしゃい、リザお姉様! ステージの感想、待ってますね!」
と、ジェリーに背中を押されて、私は歩き出した。スポットライトも私を追うように動き、なんと私を指名した人は途中まで私を迎えに歩いていた。そして、手を差し出す。
「ご協力感謝します。お嬢さん、お名前は?」
「エリザベス、です」
「では、エリザベス嬢、こちらにお立ちください」
そう言って笑うのは、黒髪に青目の青年だった。シー兄様と同じくらいの年齢かしら?
そんなことを思いつつ、言われた通りに立つとすぐに別の人がなにかを持って来た。
「最後の芸はナイフ投げです! こちらのエリザベスお嬢様に当てず、無傷でお返しすることを約束いたしましょう!」
な、ナイフ投げ? それは芸なの? と考えながらも、私の頭の上透明なシートと大きな果物が置かれた。それを左右に支える人もいる。
「動かないでくださいねー」
「危ないですからねー」
「危なくないですよー、なんせ百発百中ですから!」
自信満々にそう言う彼は、ナイフをさっと取り出した。そして「では、いきます!」とナイフを投げる。思わず目を閉じてしまったけれど、果物に刺さったらしく、果汁が垂れてきたようだ。
「ほら、成功したでしょう!」
「果物が大きかったからねー」
「次はどうかなー?」
と、様々な大きさの果物を次々と私の頭の上に置いては、ナイフを投げていた。
最後はりんごを頭の上に乗せられて、そのりんごに三本同時にナイフを投げて命中させるという大技も見せてくれた。
「おおー! すごいぞハンフリー!」
「エリザベスお嬢様も動かなくて偉いぞー!」
りんごを頭の上から外された私は、ナイフを投げられるたびにドキドキと心臓が早鐘を打っていたことに気付いて、ゆっくりと呼吸を整えた。
それにしても『百発百中』に嘘偽りなく、果物だけにナイフを当てられるなんてすごい!
盛大な拍手を送られた青年は、私の元へ近付くとそっと透明なシートを取った。
「協力してくれたエリザベスお嬢様に、盛大な拍手を!」
と、青年が私の手を取って上に向けた。私に対しても、拍手が送られてなんだか妙な気分になった。
「いやぁ、本当に助かったよ。めーちゃん」
「……え?」
めーちゃん? と首を傾げると、彼はパチンとウインクをした。
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