そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章10話(220話)

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「ジェリーと話しているリザは、『お姉さん』って感じだね」
「そうですか? ……まぁ、ずっと姉でしたから。今は、エドの姉でもありますし……」

 ジュリーの姉で、エドの姉で、ジェリーの姉だ。生まれたのは私のほうが早いし。

「……ジュリーは、反省しているようですか?」
「……どうだろう。僕も数回しか会ったことがないからなぁ……」

 数回でも、会ったことがあることに驚いた。

「あ、僕一人じゃないよ。クリフ様と一緒。もっと言えば、カーラとも一緒」
「カーラ様とも?」

 目をぱちくりと瞬かせると、ヴィニー殿下はこくりとうなずいた。

「身体の様子を見にね。マザー・シャドウの魔力は大分抜けたようだけど、自分がしたことをはっきり覚えていながら、自分は悪くない、の一点張り。あそこまで頑なだと逆に感心するよ」
「……ジュリーは、心が成長していないのね……」
「多分ね。せめて、自分の罪を認めてくれると良いのだけど……」

 もしもファロン家のお父様が、マザー・シャドウと知り合わなかったらどうなっていたのだろう? ファロン家はごくごく普通の家庭になっていたのだろうか……。そしたら、ジュリーは心も成長していたのかな?

「……会いたいと思う?」
「ジュリーに、ですか?」
「そう。会うと言っても、扉越しになるだろうけど」

 ヴィニー殿下の言葉に、私は首を左右に振った。きっともう、二度と会うことはないだろう。アンダーソン家の養女となった私を、ジュリーは憎らしく思っているだろうし……。

「……ファロン家も、ブライト家も、マザー・シャドウ一人の手によって崩壊させられたんですね……。ブライト家が元に戻りそうなのは、嬉しいです」

 ファロン家のお母様は今、どんな心境なのだろう。遠い地にいる彼女のことを考えて、私は目を伏せる。……今度、カーラ様に頼んでファロン家のお母様……いえ、今は修道院でミラベルと言う名前で過ごしているらしいから、ミラベル様宛に手紙を書いて、カーラ様に渡しましょう。

「――みんなが幸せになるって、難しそうですね……」
「そもそも、幸せの定義ってなんだろうね?」
「え?」
「僕は魔法のことが好きだから、そういう勉強をしているけど、他の人たちから見れば、僕は『王家で生まれたのに変わったヤツ』って感じだし……」

 王位継承問題のことかしら……? そもそも、そんなことをわざわざヴィニー殿下に伝わるように話す人が居るということに驚いた。

「巫子の血もそこそこ厄介だし、兄たちから煙たがれているし、多分、僕の世話役たちは面倒だと思っているだろうし。でも、僕は好きなことが出来ているから、幸せだって胸を張って言えるよ」
「……なんだかそこそこ重い話を聞いたような気がするのですが?」
「重いかどうかは人次第。リザの過去だって重いでしょ」
「……否定は出来ません」

 完璧に過去と言い切るにはまだ傷は癒えていなくて、それでも、私はアンダーソン家で暮らして幸せだと言える。……そっか、そう言うものよね。人の幸せなんて、私たちが測ることじゃない。自分で決めるもの、よね。

「なんだか、ヴィニー殿下と話していると、気が楽になります」
「それは良かった。それじゃあ、次のステージまで、もう少し建国祭を見て回ろうか」

 かたんと椅子から立ち上ったヴィニー殿下は、私へと手を差し出した。私はその手を取って立ち上がる。――そうね、まずはこの建国祭を楽しまなくちゃ! そう考えて、私たちは建国祭に出ているお店を時間が許す限り見て行った。
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