そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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3章

3章3話(213話)

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 シー兄様はディアの元に向かい、アル兄様と同じように一本のバラを差し出した。オレンジ色のバラだ。ジーンと同じように、棘は抜かれているみたいで、ディアはシー兄様とオレンジ色のバラを交互に見て、首を傾げた。

「見事なダンスを見せてくれてありがとう」
「こ、こちらこそ……、見に来ていただいて、ありがとうございます」

 そっとシー兄様からバラを受け取って、頬を染めるディアを見て、私とジーンは互いに顔を見合わせて「ふふ」と小さく笑った。

「リザ」
「はい、ヴィニー殿下」
「これを……」

 ヴィニー殿下は私に向けて、ピンク色のバラを差し出した。なんと、私の分も用意されていたようだ。もちろん、棘は抜かれている。私は差し出されたバラを受け取って、ヴィニー殿下に頭を下げた。

「ありがとうございます」
「一週間、ダンスを楽しみにしているね」
「……あまり変化はありませんよ?」

 一週間、同じ時間にダンスをすることになるから、多少のアレンジは加えるけれど、基本的には同じダンスだ。センターはコロコロ変えるけど……。
 今日の夜にセンターをする私。実は明日の朝もセンターだったりする。これはくじ引きで決めたことだ。話し合いで決めたのは一日目の今日と、最終日くらい。最終日は、朝しか踊らないから、私とジーンはディアを推した。
 だって、このダンスはディアの協力がなければ完成しないものだったから。ディアもそれを理解しているのか、引き受けてくれた。私とジーンはディアを引き立てる役に徹することにしたのだ。
 それはともかく、今は自由時間。せっかくの建国祭、楽しまないと。

「花は頭に飾るか服に飾ってね。お守りだよ」

 アル兄様がそう言った。お守り? と首を傾げると、ヴィニー殿下が教えてくれた。

「花を加工してアミュレットにしたんだ。建国祭が終わるまで、枯れないようにしたし、君たちに近付いて来る魔の手を払うようにって魔除けの加護を与えた」
「ヴィンセント殿下とアルがすっごく研究して、花が耐えられるくらいの魔法を掛けていたからな……。それ、やっと成功したやつなんだ」
「ちょっと! シリル兄様、ばらさないでよ!」

 焦ったようにアル兄様とヴィニー殿下がシー兄様を睨む。……私たちを守るために、このバラを加工してくださったのね……。私たちは、そっとバラをそれぞれの頭に飾った。棘も抜かれているし、そのまま髪にさしてみたのだ。
 それを見たアル兄様たちが動きを止めて、じっと私たちを見つめる。

「うん、やっぱり似合う」
「ありがとうございます」

 再度、三人でお礼を伝えると、彼らは緩やかに首を振った。

「三人はこれからどこへ?」
「とりあえず、街を見て回ろうかと……」
「なら、オレらも付き合うよ。舞姫たちの護衛をさせていただけませんか?」

 シー兄様が改まった口調でそう言って、胸元に手を当てて軽く頭を下げてパチンとウインクをした。ディアが耳まで赤くなってしまった。とりあえず、時間が勿体ないから控室を出ることにした。
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