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1章:出会い
始まりの日 16話
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素直な朱亞の言葉は、妃たちの心にじんわりと沁み込んでいく。
だからこそ、返すことを前提で小鈴が言葉にしたのだが、桜綾はきっぱりと断り――会心の笑みを浮かべた。
彼女を侍女にすると決めたのは、その純真な心がまぶしく、きっと後宮でも光を照らす存在になるだろうと考えたからだ。
「朱亞はわたくしが見つけた子ですもの」
「羨ましいわ。そんな純真な子を侍女にできて」
雹華が声を潜めてつぶやく。彼女の侍女だって優しい子だ。だが、雹華を心配するあまり、笑顔を見せることが少ない。
生まれつき白い髪と灰色の瞳をもったため、家族からも疎まれ生家では自分の居場所がなかった。居心地の悪い家の中、雹華が自我を保てていたのは自身の侍女のおかげだ。
肖家に仕える女性で、雹華にとっては姉にも等しい人。
彼女は雹華が後宮に入ることになったとき、自ら志願してついてきてくれた。
そのことにはとても感謝している。
感謝しているが、時々とても申し訳なく感じるのだ。
(――私が後宮に入ったのは、両親が望んだから)
皇帝である飛龍は、三人の妃を後宮に受け入れた。しかし、一度も妃たちに触れたことがない。
そんな彼が、『絶世の美女』と巷で称賛されている女性を迎えに行ったと耳にした日は、三人とも落胆したものだ。
後宮で生き残るには、彼の寵愛が必要になる。
(――そう、思っていたのだけど……なんだか面白いことになってきたわね)
雹華はひっそりと微笑んだ。
皇后に一番近い貴妃の位を与えられた桜綾。
彼女は雹華が思っていたよりも、竹を割ったようなさっぱりとした性格で、それがとても好ましい。
そして、彼女の侍女である朱亞も。
確かに他に見ない翠色の髪ではあるが、彼女の雰囲気にぴたりと当てはまっている。
柔らかく、優しく、美しい、色。
皇太后陛下がなぜあんなにも朱亞に対して厳しい言葉をかけたのか、理解できないほどに『朱亞』という少女は無害に見える。
小鈴も若曦も、朱亞に好意的だ。雹華も、朱亞の純真さに惹かれていた。
「みなさんにも、侍女がいるのですよね」
「ええ、いるわ。でも、朱亞が良い子だから、もっとお話したくなっちゃったのよ」
小さな子どもを見守るように微笑む小鈴の姿に、雹華も若曦も言葉を呑む。
一年半ほどの付き合いだが、彼女があのように慈しむような表情を浮かべられるということを、初めて知ったからだ。
「でしたら、またこうしてお茶会を開きましょう」
朱亞の首元から腕を離し、ぱんっと音を立てて両手を合わせる桜綾に、三人の妃たちはうなずく。
「そうね、今度は花月宮でお茶会をしましょう。私の宮に、遊びにきてくださる?」
「もちろんですわ、唐淑妃」
それを聞いていた若曦がひらひらと手を振った。
「なら、その次はわたしの宮、さらにその次は月華宮という感じで親交を深めていこうか」
提案を口にする若曦に、全員の視線が集まる。
「そうですね、ひとりの宮にだけ集まるのは、不公平ですもの」
雹華の言葉に、全員がうなずいた。
だからこそ、返すことを前提で小鈴が言葉にしたのだが、桜綾はきっぱりと断り――会心の笑みを浮かべた。
彼女を侍女にすると決めたのは、その純真な心がまぶしく、きっと後宮でも光を照らす存在になるだろうと考えたからだ。
「朱亞はわたくしが見つけた子ですもの」
「羨ましいわ。そんな純真な子を侍女にできて」
雹華が声を潜めてつぶやく。彼女の侍女だって優しい子だ。だが、雹華を心配するあまり、笑顔を見せることが少ない。
生まれつき白い髪と灰色の瞳をもったため、家族からも疎まれ生家では自分の居場所がなかった。居心地の悪い家の中、雹華が自我を保てていたのは自身の侍女のおかげだ。
肖家に仕える女性で、雹華にとっては姉にも等しい人。
彼女は雹華が後宮に入ることになったとき、自ら志願してついてきてくれた。
そのことにはとても感謝している。
感謝しているが、時々とても申し訳なく感じるのだ。
(――私が後宮に入ったのは、両親が望んだから)
皇帝である飛龍は、三人の妃を後宮に受け入れた。しかし、一度も妃たちに触れたことがない。
そんな彼が、『絶世の美女』と巷で称賛されている女性を迎えに行ったと耳にした日は、三人とも落胆したものだ。
後宮で生き残るには、彼の寵愛が必要になる。
(――そう、思っていたのだけど……なんだか面白いことになってきたわね)
雹華はひっそりと微笑んだ。
皇后に一番近い貴妃の位を与えられた桜綾。
彼女は雹華が思っていたよりも、竹を割ったようなさっぱりとした性格で、それがとても好ましい。
そして、彼女の侍女である朱亞も。
確かに他に見ない翠色の髪ではあるが、彼女の雰囲気にぴたりと当てはまっている。
柔らかく、優しく、美しい、色。
皇太后陛下がなぜあんなにも朱亞に対して厳しい言葉をかけたのか、理解できないほどに『朱亞』という少女は無害に見える。
小鈴も若曦も、朱亞に好意的だ。雹華も、朱亞の純真さに惹かれていた。
「みなさんにも、侍女がいるのですよね」
「ええ、いるわ。でも、朱亞が良い子だから、もっとお話したくなっちゃったのよ」
小さな子どもを見守るように微笑む小鈴の姿に、雹華も若曦も言葉を呑む。
一年半ほどの付き合いだが、彼女があのように慈しむような表情を浮かべられるということを、初めて知ったからだ。
「でしたら、またこうしてお茶会を開きましょう」
朱亞の首元から腕を離し、ぱんっと音を立てて両手を合わせる桜綾に、三人の妃たちはうなずく。
「そうね、今度は花月宮でお茶会をしましょう。私の宮に、遊びにきてくださる?」
「もちろんですわ、唐淑妃」
それを聞いていた若曦がひらひらと手を振った。
「なら、その次はわたしの宮、さらにその次は月華宮という感じで親交を深めていこうか」
提案を口にする若曦に、全員の視線が集まる。
「そうですね、ひとりの宮にだけ集まるのは、不公平ですもの」
雹華の言葉に、全員がうなずいた。
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