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1章:出会い
始まりの日 11話
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蘭玲を先頭にし、歩き出す。朱亞は少し迷ってから、彼女の隣に並び小さな声で問いかける。
「あの、蘭玲さん。胡貴妃の暮らす宮って、名前があるんですか?」
こっそりと聞かれたことに、蘭玲は一瞬目を丸くして、それからふっと表情を和らげた。
「玲瓏宮よ」
「れいろう……」
「ええ。貴妃の宮はそう呼ばれているの」
朱亞は舌に馴染ませるように、何度も口の中で玲瓏と繰り返す。その様子を見ながら、後ろをついてくる妃たちにも視線を向ける。
彼女たちにもそれぞれの宮に名前が付いているらしく、どんな名前なのだろうと考えていると、蘭玲が小さく笑みを浮かべながら教えてくれた。
「淑妃の宮は花月宮、徳妃の宮は華光宮、賢妃の宮は華月宮と呼ばれているわ」
「……? 貴妃の宮だけ、なんだか名前の雰囲気が違いますね?」
「貴妃だからね」
くすりと蘭玲の口角が上がる。視線を前に戻して、ぴたりと足を止めた。彼女の視線の先には、桜綾と飛龍がいた。ふたりは朱亞たちに気付くと、桜綾が駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「玲瓏宮でお茶会をすることになりました」
蘭玲がそう伝えると、桜綾はぴくりと眉を跳ねてから、ゆっくりと深呼吸をした。他の妃たちに視線を移す。彼女たちは飛龍を前にしているからか、頭を下げていた。
「――あの、陛下。こちらの方々の位? を決めたのは昨日というのは、本当なのですか?」
「ああ、彼女たちから聞いたのか? そうだ。宮もそれでようやく決まった」
「……今まで彼女たち、どこで暮らしていたんですか?」
桜綾が小首をかしげて問いかける。
「清暉宮だ。彼女たちは、一年半ほどそこで暮らしていた」
「い、一年半も……」
目を大きく見開いて額に手を添えてうつむいた桜綾は、左右に首を振ってから、小さく咳払いをして蘭玲を見た。
「わたくしの宮で、お茶会できる場所があるの?」
「え、いつの間に」
「深夜にこっそりと」
蘭玲がすっと桜綾が立っている場所からふたつ隣の場所を指す。
彼女は昨夜のうちに用意していたようで、朱亞も桜綾もそのことに気付くことなく眠っていた。
「朱亞、少し良いか?」
「え? あ、はい」
いきなり飛龍に声をかけられ、朱亞は戸惑ったように桜綾を見た。彼女がうなずいたのを確認してから、飛龍に返事をする。
「朱亞。わたくしたちはあそこにいるから、陛下との話が終わったらきてちょうだい」
「わかりました」
桜綾たちは飛龍に一礼してから部屋へと足を進める。どの部屋に入ったのかをしっかりと見届けてから、飛龍を見上げた。
「それで、私になんのご用でしょうか」
皇帝陛下とふたりきり、という状況に朱亞は眉を下げて問う。
「――そなたは、どこの出身だ?」
問いかけられた言葉に首をかしげる。山の奥の村、と答えると彼は困ったように肩をすくめた。
「そうではなく、村の名前は?」
「雲隠れの村、と呼ばれていました。それしか知りません」
「……余が皇帝になる前から、その村はあったのだな?」
こくりとうなずく。飛龍は考えるように口元に手を置き、真剣な表情でこうつぶやく。
「――皇族は、その村の存在を知らぬ」
「あの、蘭玲さん。胡貴妃の暮らす宮って、名前があるんですか?」
こっそりと聞かれたことに、蘭玲は一瞬目を丸くして、それからふっと表情を和らげた。
「玲瓏宮よ」
「れいろう……」
「ええ。貴妃の宮はそう呼ばれているの」
朱亞は舌に馴染ませるように、何度も口の中で玲瓏と繰り返す。その様子を見ながら、後ろをついてくる妃たちにも視線を向ける。
彼女たちにもそれぞれの宮に名前が付いているらしく、どんな名前なのだろうと考えていると、蘭玲が小さく笑みを浮かべながら教えてくれた。
「淑妃の宮は花月宮、徳妃の宮は華光宮、賢妃の宮は華月宮と呼ばれているわ」
「……? 貴妃の宮だけ、なんだか名前の雰囲気が違いますね?」
「貴妃だからね」
くすりと蘭玲の口角が上がる。視線を前に戻して、ぴたりと足を止めた。彼女の視線の先には、桜綾と飛龍がいた。ふたりは朱亞たちに気付くと、桜綾が駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「玲瓏宮でお茶会をすることになりました」
蘭玲がそう伝えると、桜綾はぴくりと眉を跳ねてから、ゆっくりと深呼吸をした。他の妃たちに視線を移す。彼女たちは飛龍を前にしているからか、頭を下げていた。
「――あの、陛下。こちらの方々の位? を決めたのは昨日というのは、本当なのですか?」
「ああ、彼女たちから聞いたのか? そうだ。宮もそれでようやく決まった」
「……今まで彼女たち、どこで暮らしていたんですか?」
桜綾が小首をかしげて問いかける。
「清暉宮だ。彼女たちは、一年半ほどそこで暮らしていた」
「い、一年半も……」
目を大きく見開いて額に手を添えてうつむいた桜綾は、左右に首を振ってから、小さく咳払いをして蘭玲を見た。
「わたくしの宮で、お茶会できる場所があるの?」
「え、いつの間に」
「深夜にこっそりと」
蘭玲がすっと桜綾が立っている場所からふたつ隣の場所を指す。
彼女は昨夜のうちに用意していたようで、朱亞も桜綾もそのことに気付くことなく眠っていた。
「朱亞、少し良いか?」
「え? あ、はい」
いきなり飛龍に声をかけられ、朱亞は戸惑ったように桜綾を見た。彼女がうなずいたのを確認してから、飛龍に返事をする。
「朱亞。わたくしたちはあそこにいるから、陛下との話が終わったらきてちょうだい」
「わかりました」
桜綾たちは飛龍に一礼してから部屋へと足を進める。どの部屋に入ったのかをしっかりと見届けてから、飛龍を見上げた。
「それで、私になんのご用でしょうか」
皇帝陛下とふたりきり、という状況に朱亞は眉を下げて問う。
「――そなたは、どこの出身だ?」
問いかけられた言葉に首をかしげる。山の奥の村、と答えると彼は困ったように肩をすくめた。
「そうではなく、村の名前は?」
「雲隠れの村、と呼ばれていました。それしか知りません」
「……余が皇帝になる前から、その村はあったのだな?」
こくりとうなずく。飛龍は考えるように口元に手を置き、真剣な表情でこうつぶやく。
「――皇族は、その村の存在を知らぬ」
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