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1章:出会い
始まりの日 2話
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朱亞はもう一度、桜綾の肩に手を置いて起こすことを試みる。
「朝ですよ、胡貴妃! 起きてくださいっ!」
さっきよりも強めに言葉をかけると、桜綾はうっすらと目を開けてふにゃりと微笑んだ。朱亞の手首を掴み、ぐいっと引っ張り寝台に寝かせる。ぎゅっと彼女を抱きしめて、「もうちょっと……」と目を閉じてしまった。
突然のことに驚いた朱亞は目を丸くして、じたばたともがいたが、彼女の腕の中からなかなか抜け出せない。
(この細い身体のどこにそんな力が!?)
抱き枕のようにぎゅうぎゅうと抱きしめられ、困惑を隠せない朱亞。桜綾が「ん……」と言葉をもらす。そして、目を開けて朱亞のことを見ると不思議そうな表情で彼女の名を呼び、寝ぼけまなこで見つめてきた。
「はい、胡貴妃。朝ですよ」
「わたくし……?」
自分がなぜ朱亞を抱きしめているのか、ぼんやりと考え――はっとしたように起き上がる。
「ごめんなさいね、朱亞。わたくし、寝ぼけていたみたい……」
頬を赤らめ両手で顔を隠す桜綾に、朱亞は眉を下げて微笑む。起き上がってから寝台を抜けだし、桜綾に声をかけた。
「おはようございます。さあ、着替えましょう。朝ご飯も食べないと。今日が始まりの日ですから、気合を入れましょう!」
「……朝から元気ね」
「はい、侍女としてがんばります!」
楽しそうに笑う朱亞に、桜綾は表情を和らげて寝台から抜け出し、彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
「――すみません、誰かいらっしゃいますか?」
桜綾に頭を撫でられて、ほんわかと胸が温かくなった朱亞だったが部屋の外から聞こえてきた声にちらりと彼女を見た。扉を軽く叩く音も同時に聞こえ、少し考えてから扉に近付いた。
「誰ですか?」
「あの、燗流さまから頼まれてきた、徐蘭玲と申します」
朱亞はちらっと桜綾を見た。彼女は朱亞に顔を向けてこくりとうなずいたので、そうっと扉を開く。
「初めまして、朱亞と申します。えっと、少々お待ちください」
桜綾の姿を見せないように、薄く開いた扉から挨拶をする朱亞。
ふわり、といい匂いが鼻腔をくすぐる。どうやら朝食を運んできてくれたようだ。
持ってきてくれた女性の顔を確かめる。亜麻色の髪をまとめ、藤紫の瞳でこちらを見ている。
「わかりました。ここで待ちますね」
花が綻ぶように笑う彼女に、朱亞はどきりとする。桜綾はどんな人でも一目見れば『絶世の美女』だとわかる。だが、彼女もまた美しい。素朴な美しさ――その言葉が浮かび、じっと彼女を見つめた。
整った顔をしている。しかし、化粧は最小限だ。それがまた、彼女の美しさを強調している。
「……どうしました? 私の顔になにかついていますか?」
「あ、いえっ。すみません。では、少々お待ちください」
「朝ですよ、胡貴妃! 起きてくださいっ!」
さっきよりも強めに言葉をかけると、桜綾はうっすらと目を開けてふにゃりと微笑んだ。朱亞の手首を掴み、ぐいっと引っ張り寝台に寝かせる。ぎゅっと彼女を抱きしめて、「もうちょっと……」と目を閉じてしまった。
突然のことに驚いた朱亞は目を丸くして、じたばたともがいたが、彼女の腕の中からなかなか抜け出せない。
(この細い身体のどこにそんな力が!?)
抱き枕のようにぎゅうぎゅうと抱きしめられ、困惑を隠せない朱亞。桜綾が「ん……」と言葉をもらす。そして、目を開けて朱亞のことを見ると不思議そうな表情で彼女の名を呼び、寝ぼけまなこで見つめてきた。
「はい、胡貴妃。朝ですよ」
「わたくし……?」
自分がなぜ朱亞を抱きしめているのか、ぼんやりと考え――はっとしたように起き上がる。
「ごめんなさいね、朱亞。わたくし、寝ぼけていたみたい……」
頬を赤らめ両手で顔を隠す桜綾に、朱亞は眉を下げて微笑む。起き上がってから寝台を抜けだし、桜綾に声をかけた。
「おはようございます。さあ、着替えましょう。朝ご飯も食べないと。今日が始まりの日ですから、気合を入れましょう!」
「……朝から元気ね」
「はい、侍女としてがんばります!」
楽しそうに笑う朱亞に、桜綾は表情を和らげて寝台から抜け出し、彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
「――すみません、誰かいらっしゃいますか?」
桜綾に頭を撫でられて、ほんわかと胸が温かくなった朱亞だったが部屋の外から聞こえてきた声にちらりと彼女を見た。扉を軽く叩く音も同時に聞こえ、少し考えてから扉に近付いた。
「誰ですか?」
「あの、燗流さまから頼まれてきた、徐蘭玲と申します」
朱亞はちらっと桜綾を見た。彼女は朱亞に顔を向けてこくりとうなずいたので、そうっと扉を開く。
「初めまして、朱亞と申します。えっと、少々お待ちください」
桜綾の姿を見せないように、薄く開いた扉から挨拶をする朱亞。
ふわり、といい匂いが鼻腔をくすぐる。どうやら朝食を運んできてくれたようだ。
持ってきてくれた女性の顔を確かめる。亜麻色の髪をまとめ、藤紫の瞳でこちらを見ている。
「わかりました。ここで待ちますね」
花が綻ぶように笑う彼女に、朱亞はどきりとする。桜綾はどんな人でも一目見れば『絶世の美女』だとわかる。だが、彼女もまた美しい。素朴な美しさ――その言葉が浮かび、じっと彼女を見つめた。
整った顔をしている。しかし、化粧は最小限だ。それがまた、彼女の美しさを強調している。
「……どうしました? 私の顔になにかついていますか?」
「あ、いえっ。すみません。では、少々お待ちください」
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