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1章:出会い
後宮 9話
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燗流と朱亞は互いに微笑み合い、ふたりの間にほんわかとした時間が流れた。
「あ! 用があるのは胡貴妃でしたよね! 少々お待ちください」
朱亞ははっとしたように顔を上げて、燗流に言葉を発すると、すぐに隣の桜綾の部屋に行き扉を叩く。
桜綾はすぐに出てきて、「どうしたの?」と小首をかしげる。朱亞が簡単に説明すると、桜綾はこくりとうなずいて、燗流のもとへ急ぐ。
「――あなたが、陛下の派遣した宦官?」
「は、はい! 初めまして、梁燗流と申します」
すっと頭を下げる燗流を見て、桜綾はじっと彼を見つめた。そして、声をかけた。
「陛下からの伝言が?」
「はい。これからはぼくが連絡役となりますので、顔を覚えていてほしいということと、こちらを」
懐から手紙を取りだし、両手で桜綾に差しだす。彼女は手紙を受け取り、早速封を開け中身を確認した。文字を追う彼女の目つきが鋭くなっていく。すべて読み終えると手紙を戻し、扇子を取りだしてにこりと微笑む。
「……あの……?」
怯えたように一歩下がる燗流に、朱亞はふたりの顔を交互に見て口を挟むべきかどうかを悩んで、結局言葉を出せなかった。
「とりあえず、あなたが伝言係であることはわかりました」
凛として、硬い声だった。背筋を伸ばして目の前の燗流をじっと見つめる。
彼は居心地悪そうに視線を彷徨わせた。
「では、あなたもわたくしたちの味方、ということですわよね?」
「は、はい。ぼくはあなたたちの味方、です……!」
燗流は瑠璃色の瞳に涙をにじませて、桜綾をまるで子犬のように見上げた。彼女が彼に近付くと、びくっと肩を震わせる。
「――少々お待ちになって。返事を書くから」
「あ、はい! 待っています!」
朱亞に視線をやる桜綾に気付き、朱亞も彼女についていくことにした。とはいえ、隣の部屋なのだけど。
桜綾の部屋に入り、朱亞は辺りを見渡す。やはり彼女の部屋のほうが広く、埃っぽくはない。誰かがきちんと掃除をしていた、ということだろう。
「胡貴妃、返事を書くのですよね?」
「朱亞、読んでも良いわよ」
手紙を差しだす桜綾に、朱亞は少し迷ったがそれを受け取り、視線を落とした。
そして、手紙の内容を見て――硬直する。
「『仲良くするように』? だけ、ですか?」
「あの燗流という人、本当に宦官なのかしら」
「え?」
「あの顔……どこかで見たことがあるような気がするのよね」
桜綾はそれ以上なにも言わず、黙り込んでしまった。
目を閉じて、今までに会ったことのある人物を思い浮かべて「うーん」と唸る桜綾に、朱亞は再び手紙に視線を落とす。
なぜこの一言なのだろうか、と。そして、不自然に空いている隙間も気になり声をかけた。
「この手紙、あぶってみませんか?」
「え?」
「なんだか、空いている隙間が気になって。蝋燭もあるみたいですし、試してみませんか?」
棚の上に置かれている蝋燭と燐寸に視線を向けると、桜綾は「面白そうね」と口角を上げた。
「あ! 用があるのは胡貴妃でしたよね! 少々お待ちください」
朱亞ははっとしたように顔を上げて、燗流に言葉を発すると、すぐに隣の桜綾の部屋に行き扉を叩く。
桜綾はすぐに出てきて、「どうしたの?」と小首をかしげる。朱亞が簡単に説明すると、桜綾はこくりとうなずいて、燗流のもとへ急ぐ。
「――あなたが、陛下の派遣した宦官?」
「は、はい! 初めまして、梁燗流と申します」
すっと頭を下げる燗流を見て、桜綾はじっと彼を見つめた。そして、声をかけた。
「陛下からの伝言が?」
「はい。これからはぼくが連絡役となりますので、顔を覚えていてほしいということと、こちらを」
懐から手紙を取りだし、両手で桜綾に差しだす。彼女は手紙を受け取り、早速封を開け中身を確認した。文字を追う彼女の目つきが鋭くなっていく。すべて読み終えると手紙を戻し、扇子を取りだしてにこりと微笑む。
「……あの……?」
怯えたように一歩下がる燗流に、朱亞はふたりの顔を交互に見て口を挟むべきかどうかを悩んで、結局言葉を出せなかった。
「とりあえず、あなたが伝言係であることはわかりました」
凛として、硬い声だった。背筋を伸ばして目の前の燗流をじっと見つめる。
彼は居心地悪そうに視線を彷徨わせた。
「では、あなたもわたくしたちの味方、ということですわよね?」
「は、はい。ぼくはあなたたちの味方、です……!」
燗流は瑠璃色の瞳に涙をにじませて、桜綾をまるで子犬のように見上げた。彼女が彼に近付くと、びくっと肩を震わせる。
「――少々お待ちになって。返事を書くから」
「あ、はい! 待っています!」
朱亞に視線をやる桜綾に気付き、朱亞も彼女についていくことにした。とはいえ、隣の部屋なのだけど。
桜綾の部屋に入り、朱亞は辺りを見渡す。やはり彼女の部屋のほうが広く、埃っぽくはない。誰かがきちんと掃除をしていた、ということだろう。
「胡貴妃、返事を書くのですよね?」
「朱亞、読んでも良いわよ」
手紙を差しだす桜綾に、朱亞は少し迷ったがそれを受け取り、視線を落とした。
そして、手紙の内容を見て――硬直する。
「『仲良くするように』? だけ、ですか?」
「あの燗流という人、本当に宦官なのかしら」
「え?」
「あの顔……どこかで見たことがあるような気がするのよね」
桜綾はそれ以上なにも言わず、黙り込んでしまった。
目を閉じて、今までに会ったことのある人物を思い浮かべて「うーん」と唸る桜綾に、朱亞は再び手紙に視線を落とす。
なぜこの一言なのだろうか、と。そして、不自然に空いている隙間も気になり声をかけた。
「この手紙、あぶってみませんか?」
「え?」
「なんだか、空いている隙間が気になって。蝋燭もあるみたいですし、試してみませんか?」
棚の上に置かれている蝋燭と燐寸に視線を向けると、桜綾は「面白そうね」と口角を上げた。
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