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1章:出会い
後宮 3話
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後宮内を歩き回り、あまりの広さに桜綾は足を止めた。気付けば額にうっすらと汗をかいていた。その汗を小さな手拭いで押さえるように拭く。ちらりと朱亞を見ると、彼女は汗ひとつかかずに涼しい顔をしている。
「……朱亞ってもしかして、体力があるほう?」
「山奥で暮らしていましたからね! よう……じゃなくて、胡貴妃はあまり体力に自信がないのですか?」
立ち止まった桜綾に気付いて、朱亞も足を止める。山奥で暮らしていた朱亞にとって、平坦な道が続く後宮は歩きやすかった。
「わたくしも少し自信があったのだけど、朱亞には負けるみたい」
眉を下げる桜綾に、朱亞は辺りを見渡した。休憩できそうな木陰を発見し、彼女に手を差し伸べる。
「あそこまで行ったら、少し休憩して戻りましょう」
「適当に歩いてきたけれど、元の部屋に戻れるかしら?」
「任せてください。私、記憶力にも自信があるんです」
にこっと蕾が綻ぶように笑う朱亞に、桜綾は「そう」と安堵したように息を吐いた。
朱亞が桜綾の手を取り、彼女の手を引きながら木陰まで歩く。
「後宮の中に、こんなに立派な月桂樹があるとは思いませんでした」
朱亞は懐から大きめの手拭いを取り出し、土の上に広げる。そこに桜綾を座らせて、そっと月桂樹を撫でた。
(煮込み料理によく使ったなぁ)
祖父から一通りの家事を教わっていた。そのとき、煮込み料理に使うとよいと教えてもらったことを思い出し、朱亞は懐かしむように目元を細めて葉っぱを見つめる。
「この葉っぱって、少しいただいても良いのでしょうか」
「いったい、なにを作るの?」
「乾燥させるんです。若葉を日陰で乾燥させたものを、煮込み料理に入れると、ぐっと風味が増して美味しくなるんですよ」
「それも、おじいさんからの教え?」
朱亞は「はい!」と元気よく返事をした。桜綾も月桂樹を見上げて「そうなのね」とつぶやく。そして、彼女の名を呼び、ぽんぽんと自分の隣に座るように促す。
朱亞が桜綾を座らせるために広げた大判の手拭いは、空いている場所があり並んで座れそうだ。
「朱亞は、彼と一緒に帝都を歩いたのでしょう? そのときのことを教えてくれる? わたくし、陛下と馬車でゆっくり帝都を回っただけなの」
「えっと、私は――」
朱亞は自分と梓豪がどのように帝都を歩いたのかを話す。
人の多さに慣れない朱亞に対し、彼がとても親切にしてくれたことを話すと、桜綾の瞳がきらりときらめく。
「すっかり彼と仲良くなったのね」
「巻き込んだことを、気になさっているのでしょう」
「それでも、朱亞にその宝石を渡すぐらいですもの。きっと彼は、朱亞のことを気に入ったのね」
うふふ、と楽しそうに笑う桜綾に、朱亞は首元の宝石を思い、ぽっと頬を赤らめた。
「……朱亞ってもしかして、体力があるほう?」
「山奥で暮らしていましたからね! よう……じゃなくて、胡貴妃はあまり体力に自信がないのですか?」
立ち止まった桜綾に気付いて、朱亞も足を止める。山奥で暮らしていた朱亞にとって、平坦な道が続く後宮は歩きやすかった。
「わたくしも少し自信があったのだけど、朱亞には負けるみたい」
眉を下げる桜綾に、朱亞は辺りを見渡した。休憩できそうな木陰を発見し、彼女に手を差し伸べる。
「あそこまで行ったら、少し休憩して戻りましょう」
「適当に歩いてきたけれど、元の部屋に戻れるかしら?」
「任せてください。私、記憶力にも自信があるんです」
にこっと蕾が綻ぶように笑う朱亞に、桜綾は「そう」と安堵したように息を吐いた。
朱亞が桜綾の手を取り、彼女の手を引きながら木陰まで歩く。
「後宮の中に、こんなに立派な月桂樹があるとは思いませんでした」
朱亞は懐から大きめの手拭いを取り出し、土の上に広げる。そこに桜綾を座らせて、そっと月桂樹を撫でた。
(煮込み料理によく使ったなぁ)
祖父から一通りの家事を教わっていた。そのとき、煮込み料理に使うとよいと教えてもらったことを思い出し、朱亞は懐かしむように目元を細めて葉っぱを見つめる。
「この葉っぱって、少しいただいても良いのでしょうか」
「いったい、なにを作るの?」
「乾燥させるんです。若葉を日陰で乾燥させたものを、煮込み料理に入れると、ぐっと風味が増して美味しくなるんですよ」
「それも、おじいさんからの教え?」
朱亞は「はい!」と元気よく返事をした。桜綾も月桂樹を見上げて「そうなのね」とつぶやく。そして、彼女の名を呼び、ぽんぽんと自分の隣に座るように促す。
朱亞が桜綾を座らせるために広げた大判の手拭いは、空いている場所があり並んで座れそうだ。
「朱亞は、彼と一緒に帝都を歩いたのでしょう? そのときのことを教えてくれる? わたくし、陛下と馬車でゆっくり帝都を回っただけなの」
「えっと、私は――」
朱亞は自分と梓豪がどのように帝都を歩いたのかを話す。
人の多さに慣れない朱亞に対し、彼がとても親切にしてくれたことを話すと、桜綾の瞳がきらりときらめく。
「すっかり彼と仲良くなったのね」
「巻き込んだことを、気になさっているのでしょう」
「それでも、朱亞にその宝石を渡すぐらいですもの。きっと彼は、朱亞のことを気に入ったのね」
うふふ、と楽しそうに笑う桜綾に、朱亞は首元の宝石を思い、ぽっと頬を赤らめた。
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