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1章:出会い
後宮へ 2話
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「ええ、やっぱり思った通り! とても可愛いわ」
桜綾は着替えた朱亞を見て、明るい表情で彼女に近付いて左頬の近くで両手を合わせる。普段あまり聞かない褒め言葉を浴びて、朱亞は照れたように頬を赤く染めた。
「髪型も変えたいわね。それも陛下のお金で解決しましょう」
「本当に良いのでしょうか、陛下のお金で、そんな」
いくら飛龍が皇帝陛下でも、こんなにお金を使わせて良いものかと朱亞が眉を下げる。桜綾はそっと朱亞の頬に手を添えて、こつんと額を合わせる。
「わたくしたちは陛下の都合に付き合わされるの。だから、これは前払いの報酬だと思いなさい」
「前払いの、報酬?」
桜綾はすっと栗皮色の瞳を細めて、茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。
「そうよ。わたくしたちは依頼を受けて後宮に入るのだから、その報酬はきちんともらわないと」
「依頼」
「そう考えたほうが、気が楽になるのではなくて?」
頬から朱亞の翠色の髪に手を移動させ、その頭を撫でる桜綾に彼女は少し黙り込み、それから真っ直ぐに桜綾を見つめる。
「確かに少し、気が楽になりました。陛下は私の知識を『雇った』のですね」
「ええ、そうなるわね。さあ、後宮へ行きましょう。わたくしたちを待っているのは、どんなことかしらね?」
朱亞の頭を撫でることをやめ、桜綾は手を離す。そして、扉へと足を進めた。それを追いかけるように朱亞も続く。
しっかりと自分の荷物を持って。
桜綾が扉を開くと、梓豪が廊下で待っていた。
「準備はできましたか?」
「ええ、できたわ」
「はい」
梓豪は薄紅色の服を着た朱亞に気付き、蒲公英色の瞳を細めて彼女を眺め、柔らかく微笑む。
「似合っていますよ」
「あ、ありがとうございます」
異性に褒められるのはいつぶりだろう? と朱亞は思い返す。村にいたときは、身長が伸びるたびに祖父が服を作ったり、近所の人からもらったりしていた。
袖を通して祖父に見せると、『似合う似合う』と皺くちゃの笑顔で褒めてくれ、むず痒い気持ちになったものだ、と。
それと同じ、いや、それ以上に梓豪から褒められて、朱亞の心はなぜかむず痒くなった。
「では、まずは陛下の部屋に行きましょうか」
梓豪はくるりと背を向けて歩きだす。今朝と同じように桜綾と朱亞が後ろに続いた。宿泊客からの視線は相変わらず桜綾が集めているが、着替え終えた朱亞もまた周囲の注目を集めている。
注目を浴びることに慣れてはいない。しかし、朱亞は凛と背筋を伸ばして歩いていく。
これから後宮に入り、桜綾の侍女として働くのだ。彼女に見合う人にならなくては、と決意を胸に秘め、しっかりと顔を上げて前を見据えた。
桜綾は着替えた朱亞を見て、明るい表情で彼女に近付いて左頬の近くで両手を合わせる。普段あまり聞かない褒め言葉を浴びて、朱亞は照れたように頬を赤く染めた。
「髪型も変えたいわね。それも陛下のお金で解決しましょう」
「本当に良いのでしょうか、陛下のお金で、そんな」
いくら飛龍が皇帝陛下でも、こんなにお金を使わせて良いものかと朱亞が眉を下げる。桜綾はそっと朱亞の頬に手を添えて、こつんと額を合わせる。
「わたくしたちは陛下の都合に付き合わされるの。だから、これは前払いの報酬だと思いなさい」
「前払いの、報酬?」
桜綾はすっと栗皮色の瞳を細めて、茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。
「そうよ。わたくしたちは依頼を受けて後宮に入るのだから、その報酬はきちんともらわないと」
「依頼」
「そう考えたほうが、気が楽になるのではなくて?」
頬から朱亞の翠色の髪に手を移動させ、その頭を撫でる桜綾に彼女は少し黙り込み、それから真っ直ぐに桜綾を見つめる。
「確かに少し、気が楽になりました。陛下は私の知識を『雇った』のですね」
「ええ、そうなるわね。さあ、後宮へ行きましょう。わたくしたちを待っているのは、どんなことかしらね?」
朱亞の頭を撫でることをやめ、桜綾は手を離す。そして、扉へと足を進めた。それを追いかけるように朱亞も続く。
しっかりと自分の荷物を持って。
桜綾が扉を開くと、梓豪が廊下で待っていた。
「準備はできましたか?」
「ええ、できたわ」
「はい」
梓豪は薄紅色の服を着た朱亞に気付き、蒲公英色の瞳を細めて彼女を眺め、柔らかく微笑む。
「似合っていますよ」
「あ、ありがとうございます」
異性に褒められるのはいつぶりだろう? と朱亞は思い返す。村にいたときは、身長が伸びるたびに祖父が服を作ったり、近所の人からもらったりしていた。
袖を通して祖父に見せると、『似合う似合う』と皺くちゃの笑顔で褒めてくれ、むず痒い気持ちになったものだ、と。
それと同じ、いや、それ以上に梓豪から褒められて、朱亞の心はなぜかむず痒くなった。
「では、まずは陛下の部屋に行きましょうか」
梓豪はくるりと背を向けて歩きだす。今朝と同じように桜綾と朱亞が後ろに続いた。宿泊客からの視線は相変わらず桜綾が集めているが、着替え終えた朱亞もまた周囲の注目を集めている。
注目を浴びることに慣れてはいない。しかし、朱亞は凛と背筋を伸ばして歩いていく。
これから後宮に入り、桜綾の侍女として働くのだ。彼女に見合う人にならなくては、と決意を胸に秘め、しっかりと顔を上げて前を見据えた。
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