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1章:出会い
朱亞の知識 5話
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「宿屋に戻りましょうか」
「はい」
梓豪が朱亞に荷物を渡し、きちんと受け取るのを見てからひょいと抱き上げ、馬に乗せる。自分も朱亞の後ろに乗り、宿屋まで駆けていく。
行きよりもゆっくりと。なので、行きよりも町の様子を眺めることができた。
「……本当にたすかりました。腹痛で苦しんでいるのを見て、朱亞さんのことを思い出したんです」
頭上から声が降ってきた。その声は本当に安堵したのか優しさがにじんでいる。
「お医者さまではなく、私を?」
「ええ。この町の医者は男性ですしね。同じ女性の朱亞さんのほうが良いかと思いまして」
確かに異性よりは自分のほうが話しやすいのだろうと納得した。だからあんなに急いでいたのか、とも。
「服も買いましたし、着替えたら後宮に向かうことになるでしょう」
朱亞は神妙な表情を浮かべてうなずいた。『後宮』がどんな場所なのかまだ理解できていないので、少し不安そうに辺りを見渡す。
「――この町は、活気がすごいですね」
「そう見えるかい?」
後宮の話から町の話へ話題を変えると、梓豪は周囲を眺めて問いかけた。
「ええ、人通りだって多いし……なにより、暮らしている人たちが笑顔なのがすごいなって思います」
「すごい?」
「はい。満たされているんだろうなぁって。旅をしている最中、いろいろな村や町を回りましたけど、こんなに活気がある場所は初めてです!」
世間話をしている人たちも、外で遊んでいる子どもたちも、客寄せしている人も、すべての人たちの瞳が生き生きとしていて、見ていて気持ちが良い。
治安も良いのだろう。こういう場所は住みやすいと話していた祖父のことを思い出し、朱亞は懐かしむように目元を細めた。
「民が幸せそうに暮らしているのは、良いことだと思います」
「そうですね」
しみじみとつぶやく彼女の言葉を噛み締めるように、梓豪は目元を細める。
馬車に乗ってあの宿屋まで移動してきたときには気付かなかったが、この町の雰囲気はあの村に似ていた。村で暮らしていた人たちはみんな生き生きとしていて、朱亞のことを可愛がってくれた。
『子どもなんて何年ぶりかしらね』
物心がついた頃に、近所に住む妙齢の女性に頬を両手でもちもちと揉まれたことを思い出し、小さく微笑みを浮かべる。
「なんだか懐かしい気がします。ここの人たちを見ると」
「懐かしい、ですか?」
なぜ懐かしく感じるのかを説明すると、梓豪は「村が恋しいですか?」と聞いてきた。
朱亞はうーん、と唸ってから、緩やかに首を左右に振る。
「少しも、とは言えませんけれど、新しいことに胸の鼓動が高まります。この感覚は……村で暮らしていたら知らなかったと思うので」
「では、これからもたくさんの『新しいこと』に出会いそうですね」
「そうですね、楽しみです」
これから先の未来に、どんなことが起こるのだろう。そのことを想像すると、朱亞の胸はどきどきと早鐘を打ち期待と不安が半々……いや、期待七割、不安三割と期待のほうが大きい。
――これから先、後宮でどんなことがあっても、きっと大丈夫と自分自身に言い聞かせる。
「はい」
梓豪が朱亞に荷物を渡し、きちんと受け取るのを見てからひょいと抱き上げ、馬に乗せる。自分も朱亞の後ろに乗り、宿屋まで駆けていく。
行きよりもゆっくりと。なので、行きよりも町の様子を眺めることができた。
「……本当にたすかりました。腹痛で苦しんでいるのを見て、朱亞さんのことを思い出したんです」
頭上から声が降ってきた。その声は本当に安堵したのか優しさがにじんでいる。
「お医者さまではなく、私を?」
「ええ。この町の医者は男性ですしね。同じ女性の朱亞さんのほうが良いかと思いまして」
確かに異性よりは自分のほうが話しやすいのだろうと納得した。だからあんなに急いでいたのか、とも。
「服も買いましたし、着替えたら後宮に向かうことになるでしょう」
朱亞は神妙な表情を浮かべてうなずいた。『後宮』がどんな場所なのかまだ理解できていないので、少し不安そうに辺りを見渡す。
「――この町は、活気がすごいですね」
「そう見えるかい?」
後宮の話から町の話へ話題を変えると、梓豪は周囲を眺めて問いかけた。
「ええ、人通りだって多いし……なにより、暮らしている人たちが笑顔なのがすごいなって思います」
「すごい?」
「はい。満たされているんだろうなぁって。旅をしている最中、いろいろな村や町を回りましたけど、こんなに活気がある場所は初めてです!」
世間話をしている人たちも、外で遊んでいる子どもたちも、客寄せしている人も、すべての人たちの瞳が生き生きとしていて、見ていて気持ちが良い。
治安も良いのだろう。こういう場所は住みやすいと話していた祖父のことを思い出し、朱亞は懐かしむように目元を細めた。
「民が幸せそうに暮らしているのは、良いことだと思います」
「そうですね」
しみじみとつぶやく彼女の言葉を噛み締めるように、梓豪は目元を細める。
馬車に乗ってあの宿屋まで移動してきたときには気付かなかったが、この町の雰囲気はあの村に似ていた。村で暮らしていた人たちはみんな生き生きとしていて、朱亞のことを可愛がってくれた。
『子どもなんて何年ぶりかしらね』
物心がついた頃に、近所に住む妙齢の女性に頬を両手でもちもちと揉まれたことを思い出し、小さく微笑みを浮かべる。
「なんだか懐かしい気がします。ここの人たちを見ると」
「懐かしい、ですか?」
なぜ懐かしく感じるのかを説明すると、梓豪は「村が恋しいですか?」と聞いてきた。
朱亞はうーん、と唸ってから、緩やかに首を左右に振る。
「少しも、とは言えませんけれど、新しいことに胸の鼓動が高まります。この感覚は……村で暮らしていたら知らなかったと思うので」
「では、これからもたくさんの『新しいこと』に出会いそうですね」
「そうですね、楽しみです」
これから先の未来に、どんなことが起こるのだろう。そのことを想像すると、朱亞の胸はどきどきと早鐘を打ち期待と不安が半々……いや、期待七割、不安三割と期待のほうが大きい。
――これから先、後宮でどんなことがあっても、きっと大丈夫と自分自身に言い聞かせる。
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