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1章:出会い
宿屋で休憩 4話
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「陛下に見つかってしまったから、そうなるでしょうね。……朱亞、ひとつ、お願いがあるのだけど」
桜綾がすっと目元を細めて、真剣な表情を浮かべる。そんな真剣な表情でする『お願い』とはどんなものなのだろうか。朱亞は不安げに瞳を揺らす桜綾を見て、口を開く。
「私にできることですか?」
「あなたにしかできないわ。朱亞、わたくしの侍女になってくださらない?」
「……?」
言葉の意味が理解できなかったのか、朱亞は猫のような大きな目を見開いて、それから「じじょ?」と言葉をこぼす。若緑色の瞳には、はっとしたような表情の桜綾が映っている。
「もしかして、『侍女』がなにか知らない?」
素直に首を縦に動かす朱亞に、桜綾のほうが驚いてしまった。どうやら彼女の知識はかなり偏られていると考え、桜綾は次に紡ぐ言葉に詰まった。
(この子に与えられた知識は、いったい――?)
「桜綾さん?」
「あっ、ええと、そうね。侍女というのは、わたくしのことを手伝ってくれる女性のことなの」
「手伝う?」
「ええ。わたくし、恐らくこのまま後宮に向かうことになるわ。そして後宮でわたくしの味方がない……だから、朱亞。わたくしの味方になってもらいたいの」
切々と言葉を紡ぐ桜綾に、朱亞は考え込む。後宮の話は祖父から聞いたことがなかったので、どんなところなのか想像ができない。
とりあえず知っていることといえば、『皇帝陛下の妻が住んでいるところ』という基本的なことだ。
「私で良いのですか?」
「朱亞だから、いいのよ」
桜綾の栗皮色の瞳が細められ、美しく笑う。美女の笑顔を間近で見て、朱亞は一瞬息を呑み、小さくうなずく。
――ぽたり、と気が緩んだのか、桜綾の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「桜綾さん!?」
「ありがとう、朱亞。その選択に、後悔なんて絶対にさせないから」
大粒の涙がぽろぽろと彼女の瞳からあふれ、頬を伝い湯船に落ち波紋を描く。朱亞はおろおろと桜綾の泣き顔をみていたが、そっと手を伸ばして彼女の涙を指で拭う。
「大丈夫ですか……?」
「ごめんなさいね、あなたを巻き込んで、本当に」
「いえ、そんなことは……」
目元に触れていた朱亞の手を取り、桜綾は優しく微笑んだ。互いに頬が赤く染まっていることに気付き、先程まで感じていた寒気が消えたことに気付いた。
「そろそろ上がりましょうか。のぼせちゃったら大変だしね」
「はい!」
身体がぽかぽかと温まった。そして、ふと赤い花弁に視線を移して桜綾に尋ねる。
「ところでこの花弁って、なんの花だったのでしょうか?」
「これはきっと、赤薔薇だと思うわ」
「……一輪でもすごく華やかだったんだろうなぁ。それをこんなに入れちゃうなんて、すごいですね!」
桜綾がすっと目元を細めて、真剣な表情を浮かべる。そんな真剣な表情でする『お願い』とはどんなものなのだろうか。朱亞は不安げに瞳を揺らす桜綾を見て、口を開く。
「私にできることですか?」
「あなたにしかできないわ。朱亞、わたくしの侍女になってくださらない?」
「……?」
言葉の意味が理解できなかったのか、朱亞は猫のような大きな目を見開いて、それから「じじょ?」と言葉をこぼす。若緑色の瞳には、はっとしたような表情の桜綾が映っている。
「もしかして、『侍女』がなにか知らない?」
素直に首を縦に動かす朱亞に、桜綾のほうが驚いてしまった。どうやら彼女の知識はかなり偏られていると考え、桜綾は次に紡ぐ言葉に詰まった。
(この子に与えられた知識は、いったい――?)
「桜綾さん?」
「あっ、ええと、そうね。侍女というのは、わたくしのことを手伝ってくれる女性のことなの」
「手伝う?」
「ええ。わたくし、恐らくこのまま後宮に向かうことになるわ。そして後宮でわたくしの味方がない……だから、朱亞。わたくしの味方になってもらいたいの」
切々と言葉を紡ぐ桜綾に、朱亞は考え込む。後宮の話は祖父から聞いたことがなかったので、どんなところなのか想像ができない。
とりあえず知っていることといえば、『皇帝陛下の妻が住んでいるところ』という基本的なことだ。
「私で良いのですか?」
「朱亞だから、いいのよ」
桜綾の栗皮色の瞳が細められ、美しく笑う。美女の笑顔を間近で見て、朱亞は一瞬息を呑み、小さくうなずく。
――ぽたり、と気が緩んだのか、桜綾の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「桜綾さん!?」
「ありがとう、朱亞。その選択に、後悔なんて絶対にさせないから」
大粒の涙がぽろぽろと彼女の瞳からあふれ、頬を伝い湯船に落ち波紋を描く。朱亞はおろおろと桜綾の泣き顔をみていたが、そっと手を伸ばして彼女の涙を指で拭う。
「大丈夫ですか……?」
「ごめんなさいね、あなたを巻き込んで、本当に」
「いえ、そんなことは……」
目元に触れていた朱亞の手を取り、桜綾は優しく微笑んだ。互いに頬が赤く染まっていることに気付き、先程まで感じていた寒気が消えたことに気付いた。
「そろそろ上がりましょうか。のぼせちゃったら大変だしね」
「はい!」
身体がぽかぽかと温まった。そして、ふと赤い花弁に視線を移して桜綾に尋ねる。
「ところでこの花弁って、なんの花だったのでしょうか?」
「これはきっと、赤薔薇だと思うわ」
「……一輪でもすごく華やかだったんだろうなぁ。それをこんなに入れちゃうなんて、すごいですね!」
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