【完結】婚約破棄×お見合い=一目惚れ!?

秋月一花

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そして始まる、私たちの物語! 3-2

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「あなたは、きちんと『私』を見てくれていたかしら?」

 ダニエル殿下の婚約者だった頃、私はあなたに近付かなかった。ゲームの『エリカ・レームクール』がしてきた悪事に手を染めなかった。それだけでも、わかるだろう。私が――この世界の、『エリカ・レームクール』が、断罪されるいわれ無いことを!

「う、るさい、うるさいっ、わたくしは、この世界の主人公なのよ!」
「……彼女、錯乱さくらんしているのですか?」

 アデーレと私の会話を聞いていたレオンハルトさまが、困惑したように視線をこちらに向ける。私は彼女が正気だと理解しているけれど、レオンハルトさまにとってはそう見えるわよね。

「――ええ、恐らく。私、アデーレ嬢とはあまり会話したことありませんし、ここまで憎まれているなんて、悲しいですわ」

 レオンハルトさまから見えないように顔を背ける。アデーレは、ぶつぶつとなにかを呟いている。耳を澄ませると、「そんなはずない、わたくしが主役、幸せになるのはわたくし」と聞こえてくる。

「レオンハルトさま、アデーレ嬢をこのまま拘束してくださいますか?」
「え? は、はい」

 私に手出しを出来ないように、きつく彼女の身を拘束するレオンハルトさま。私は、彼女に近付いて耳元でささやく。

「――あなたひとりがヒロインだと、思わないことね」

 この世界で生きているひとりひとりが、ヒーローでヒロインなのだから。

 その言葉を聞いて、アデーレは弾かれたように顔を上げて、悔しそうに表情を歪め、がくんと項垂れ涙を流した。

 その後、塔から抜け出したアデーレは城の騎士たちに引き渡され、私たちは再びフォルクヴァルツへ向かうことになった。馬車に乗り込み、背もたれにもたれかかってしまう。

「エリカ嬢、隣に座っても?」
「は、はいっ」

 ハッとしてきちんと座ろうとしたけれど、レオンハルトさまに「そのままで良いですよ」と優しく言われた。

 私の隣に座るレオンハルトさまは、御者に合図を送り馬車を再び走らせる。動き出してから、そっと私の頬に手を添えて、「大丈夫ですか?」と小首を傾げて聞いてきた。

「平気ですわ。レオンハルトさまも、大丈夫でしたか?」
「オレはまぁ、慣れているので。彼女の爪がちょっと当たったくらいだったので、平気ですよ」
「爪が? き、傷になってはいませんか?」

 私が傷を見せて欲しいと何度もお願いすると、根負けしたレオンハルトさまが手を見せてくれた。アデーレの爪で引っ掻かれたようで、じんわりと血が滲んでいた。ハンカチを取り出して、レオンハルトさまの手に巻き付ける。

「――ごめんなさい、レオンハルトさま。私のせいで……」

 明らかに、アデーレの狙いは私だった。私のせいで怪我を負わせてしまったことが心苦しい。しゅんとした私に、レオンハルトさまがこつん、と額を合わせた。

「――ありがとうございます、エリカ嬢」
「……え?」

 お礼を言われる覚えがなくて、戸惑った声が出た。レオンハルトさまはふっと目元を細めると、添えていた手とは反対方向の頬に唇を落す。

「れ、レオンハルトさま?」

 一気に体温が上昇した気がする。絶対に今の私、顔が真っ赤だわ!

 彼のことになると一気に赤くなっちゃうのはなんでなの!? いや、それほど好きになったということなんだろうけれど……!

「オレのことを心配してくれたのが、嬉しくて。好きな人に心配されるというのは、こんなにも心が満たされるものなのですね」
「――……ッ」

 レオンハルトさまが本当に嬉しそうに言うものだから、なにも言えなかった。
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