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そして始まる、私たちの物語! 3-1
しおりを挟むレームクール邸が完全に見えなくなってから、私は前を向いた。レオンハルトさまが優しい瞳で見ていたことに気付いて、思わず顔を赤くさせる。――この感覚、慣れる日は来るのかしら?
「エリカ嬢、……大丈夫ですか?」
「……ええ。永遠の別れではありませんもの」
それでも、両親の元から巣立つのは、寂しさを感じてしまう。
「ゆっくりとフォルクヴァルツに向かうルートなので、ついでにいろいろな場所も見ていきましょう」
私に気遣ってくれているのかな? と思ったけれど考えてみれば彼はフォルクヴァルツ辺境伯。自分の治める領地や周りの領地を見て回りたいのかもしれない。
「それは楽しみですわ」
「結婚前にエリカ嬢のことを領民たちに知らせておきたいですし……」
――私の存在を知らせる? と目を数回瞬かせた。すると、レオンハルトさまはすっと視線を馬車の外へ向ける。思わず同じ方向に視線を向けると、――な、なにあれ!?
「……うーん、一度ここで止まりましょうか」
「は、はい……」
御者に馬車を止めてもらう。……人が少ないとはいえ街道になんで、彼女がいるの!? しかもなんか、怖いんですけど!? どうやって塔から抜け出したのか、なにかを睨むようにこっちを見ているとか、乙女ゲームではなくホラーゲームの中だったと言われても納得するシチュエーションよ!?
馬車が止まったことにより、彼女――アデーレが近付いてきた。レオンハルトさまはバンっと扉を勢いよく開け、彼女に向かって行った。
「レオンハルトさまっ!」
思わず叫ぶ。そ、そうだ懐剣! 使い方なんて教わっていないけれど、近付いてきたら振り回そう。
「――どうしてそんなに、エリカ嬢を狙うのですか?」
アデーレは男爵令嬢だ。そんな彼女がレオンハルトさまに敵うはずなく、あまりにも呆気なく彼女は捕まった。手首を掴まれて、アデーレが暴れている。
懐剣を握りしめたまま、レオンハルトさまに近付いていく。
「どうしてっ、ダニエルルートに入ったのにっ! あんたのほうが幸せそうなのよ!」
彼女がそう叫ぶ。……やはり、彼女は転生者なのだ。
「――私が幸せだと、あなたになにか不都合があるの?」
ピタリと足を止め、こちらを睨むように見上げるアデーレに問いかける。彼女は表情を歪めて、笑う。
「当然でしょう。わたくしは、『エリカ・レームクール』が大嫌いなのだから!」
――彼女は、乙女ゲームの中の私を嫌っているのだろうと思う。だって、嫌われるほど彼女に関わっていない。レオンハルトさまは「なにを言って……」と眉を顰めた。
「ゲーム内であなたがどれほどわたくしに酷いことをしたと思うの!? 断罪されて当然のことを、していたのよ!」
「ゲーム……?」
「この世界はわたくしのもの! わたくしが幸せになるための場所! 『エリカ・レームクール』は不幸になるべき存在なのよ!」
声を高らかにそんなことを口にするアデーレに、頭が痛くなった。ゲーム内の『エリカ・レームクール』と、この世界の『エリカ・レームクール』は同一人物ではないの。
「アデーレ嬢、この世界は、誰のものでもないでしょう。私たちはこの世界で生きているのだから、ひとりだけのために、世界は成り立たないわ」
淡々とした口調でそう言うと、アデーレはギロリと睨みつけてきた。
――大丈夫、怖くない。
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