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そして始まる、私たちの物語! 1-2
しおりを挟む「アデーレ・ボルク男爵令嬢は、頭を冷やすために塔で過ごしているけれど、あのままダニエル殿下と結婚するのかねぇ?」
お父さまが悩むように口にする。
「彼女と結婚することを選ぶのなら、それはそれで愛だとは思うわよぉ?」
お母さまが頬に手を添えて、ゆっくりと息を吐く。その表情から察するに、『どうでも良い』って感じかしらね。レオンハルトさまが私たちを見渡して、眉を下げた。
「ダニエル殿下は本当に彼女のことが好きなのでしょうが、アデーレ嬢のほうはどうでしょうか? わたしには、彼女はなにかに憑りつかれているように見えるんです」
――否定はしない。できない。彼女のあの感じだと、本当に憑りつかれているように見えるもの。自分が国母になると信じて疑わないのは、ヒロインであることを知っているからだろうけど。それを口にしてはいけないと思うのよ。
「デイジーさまも頭が痛いでしょうねぇ。陛下もでしょうけどぉ……」
お母さまがデイジーさまのことを心配しているみたい。確かに大変だと思う。
「王太子を決めるのを、先にしていて良かったのかもしれないな」
「そうねぇ。こうなったら、陛下にはまだまだ元気でいてもらわないと困るわねぇ」
頬に手を添えて目を閉じるお母さま。ゆっくりと息を吐くと、ちらりとレオンハルトさまを見た。
「エリカのことをお願いします」
「――はい、お任せください」
すっと胸元に手を置いて、軽く頭を下げるレオンハルトさまに、お母さまは満足そうにうなずいた。
「一体どんなことを調べてもらっていたんだい?」
「アデーレ・ボルク男爵令嬢と、ダニエル殿下がどうやって恋仲になったか、を主に。曲がり角でぶつかったのが出会いだったそうですよ」
――少女漫画かな? 遅刻遅刻~って食パンを咥えて走るやつ。実際そんな人を見たことはないけれど。それに、私たちが通っていた学園は貴族しかいなかったから、さすがに食パンを咥えて走る人はいないだろう。貴族がそんなはしたない姿を見せるわけにはいかないのだから。
「良く調べたわねぇ」
「記憶力が良い人たちのおかげですね。どうやら、アデーレ嬢はダニエル殿下を狙ってぶつかりに行ったようなので」
「……計算された出会いだったと?」
「恐らく」
……ゲームでヒロインと攻略対象の出逢いってどんな感じだったっけ。アデーレが転生者だとしたら、曲がり角でぶつかって、が正解だったのかな?
私の記憶曖昧だなぁ。この世界に転生して十八年も経つのだし、曖昧になるのも無理はない。
「ダニエル殿下を狙って接触していることは良いのですけれど、彼女の場合……なんと言うのでしょうか、男を手玉に取ることに集中していたようで、授業中でもいろいろあったようですよ」
「……知りませんでした」
彼女に興味がなかったのも事実だけれど、それどころじゃなかったと声を大にして言いたい。そして、レオンハルトさまから聞く内容が噂話で耳にしたことあるなぁと思って、私は肩をすくめた。事実だったんだ。なにをしているの、アデーレ。
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