【完結】婚約破棄×お見合い=一目惚れ!?

秋月一花

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荷造りを終えて 前編

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 ――あのあと、レオンハルトさまは私を部屋まで送ってくれて、去り際にもう一度、唇を重ねた。……寝付けなかったのは言うまでもない。それでも短時間は寝たと思う。たぶん。

 朝にメイドたちに起こされて、「昨夜、なにかございましたか?」とたずねられるくらいには、表情を取り繕えていなかったのだろう。いや、無理だろう、たった数時間前のことを思い出さないなんて出来ないわ!

 私が顔を真っ赤にさせたのを見て、ピンと来たのか、メイドたちはみんなあたたか~い視線を向けてきたので、誤魔化すように「今日は昨日の荷造りの続きをするわ!」と宣言した。

 メイドたちはにこにこ……いや、にやにや? と笑っている。見透かされているようでなんだか恥ずかしい。

 ドレスに着替え髪を整え、化粧で肌のコンディションを誤魔化し(眠れなくてくまが出来ていた)、朝食のために食堂へ。両親はまだ帰って来ていなくて、ふたりだけの食事だった。

 レオンハルトさまは私に気付くと、爽やかな笑みを浮かべる。

「おはようございます、エリカ嬢」
「おはようございます、レオンハルトさま。……昨夜は、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」

 なんて会話をして、ふたりして顔を赤くさせる。だってまだ、感触を覚えている。そんな私たちのことを、使用人たちはみーんな、あたたか~い目で見ているものだから、なんだかすっごく気恥ずかしい。

 ――とも言えないから、とりあえず食事をしようと椅子に座る。レオンハルトさまも。すぐに食事が運ばれて、黙々と食べる。

 食事を終えて、今日はこれからどうするのかを聞かれたので、荷造りをすることを伝えた。本当はメイドたちに全部任せればあっという間に終わるのかもしれないけれど、嫁ぐための準備だもの。出来る限り、私自身が選びたい。

 ……ダニエル殿下からもらったものは、デイジーさま経由で返そうかしらとも考えている。あの宝石たちを受け取るのは私ではなく、アデーレだろう。アデーレが要らないと言うのならば、まあ宝石なのだし使い道はあると思う。

「では、わたしは少し出掛けてもよろしいでしょうか?」
「どちらに向かわれるのですか?」
「ちょっと鍛冶屋に。どんなものが置いてあるのか、気になっていて」
「フォルクヴァルツと同じようなものかもしれませんが……」
「趣味のひとつなんです、剣や鎧を見るの」

 そう言って微笑むレオンハルトさまは、まるで少年のようだった。剣や鎧を見るのが趣味……。むしろ、国境を守るフォルクヴァルツの辺境伯だからこそ、より良い質の武具を見たいのでは? と考えた。

「ゆっくり見てきてくださいませ」
「ありがとうございます。エリカ嬢は、屋敷から出ないのですよね?」
「ええ」
「では、レームクール伯爵と伯爵夫人が戻られたら、向かいます」

 メイドたちもいるし、屋敷内にひとりでも大丈夫なんだけどなぁと思いつつ、私のことを思って言ってくれているのだろうなぁ。優しい人だ。

「お気遣いありがとう存じます、レオンハルトさま」
「さて、なんのことでしょう?」

 私の言葉に、彼はそう返した。その口調はとても軽くて、私がなにに感謝しているのか理解した上で、気にしないようにしてくれているみたい。……ダメね、一度好きになるとどんどんと深みにはまっていく。

 レオンハルトさまと出逢って、恋を知った。そしてこれから、その恋を愛に変えていく。ふたりで想い合っていけたら、きっと良い夫婦関係を築き上げられる――そう遠くない未来を想像して、小さく笑みを浮かべた。
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