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ちょっと休憩 後編
しおりを挟む「……私、そんなにわかりやすい?」
「……実を言うと、ダニエル殿下と婚約していたときはそう思いませんでした。ですが、フォルクヴァルツ辺境伯と出会ってからのお嬢さまは、年相応に見えますわ」
両手の隙間から彼女たちを見ると、はにかんでいた。なんだか嬉しそうだ。
「年相応に見えるのが、嬉しいの?」
「お嬢さまはいつも、背伸びをしているように見えましたから。年相応の振る舞いが出来る方と巡り会えたことを、嬉しく思っているのです」
その言葉は、優しく私の心に沁み込んだ。
「私、あなたたちのこと大好きだわ……」
「あら、嬉しいですわ。私たちも、お嬢さまのことが大好きですよ」
ねえ? と同意を求めるように周りのメイドを見渡すのは、私と一番付き合いの長いメイドだ。他のメイドたちもうんうんとうなずいていた。
愛されてるなぁ、私。その事実がなんだかくすぐったい。
「だからこそ、お嬢さまには幸せになってもらいたいのです」
「――ありがとう。そこは絶対大丈夫な気がするわ」
だって、好きな人と結婚するのだもの。これを幸せじゃないとは言えないでしょう。
私の幸せを願ってくれる彼女たちに、感謝の気持ちでいっぱいだわ。
彼女たちはレームクール家と契約しているメイドたちだから、私と一緒にフォルクヴァルツに向かうことはないだろう。
「――あのね、あなたたちにお願いがあるの」
手を下ろして、真剣な表情を浮かべる。
メイドたちは荷造りの手を止めて、じっと私を見つめた。
「お父さまとお母さまのことを、よろしくお願いするわ。お父さまもお母さまも、私にとってかけがえのない人たちだから」
そう、かけがえのない人なのだ。私にとって、両親は。
エリカ・レームクールに、たくさんの愛情を注いでくれた。
あの日を境に、性格が変わった私のことを、受け入れてくれた。そんな両親に、たくさんの感謝を伝えたい。だからこそ、メイドたちにも両親のことをお願いしたかった。
「――もちろんですわ、お嬢さま。旦那さまたちは、私たちにとても良くしてくださいますもの」
穏やかな表情でそう言うメイドたちに、ほっと安堵の息を吐く。私が居なくても、両親たちは元気で過ごしてくれるだろう。ゲームのエンディングを思うと、胸がツキンと痛んだ。
あれほど可愛がっていた娘が、精神崩壊してしまって、両親はどれだけ嘆き悲しんだのだろう、と。……まぁ、精神を崩壊する予定は、今の私にはない。結局パレードの話も流れているみたいだから、実質的にもうゲームのシナリオとはかけ離れているということだ。
安心はまだできないかもしれないけれど、警戒しすぎることもないだろう。……きっと。
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