【完結】婚約破棄×お見合い=一目惚れ!?

秋月一花

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お茶会が終わって 後編

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 触れるだけでもドキドキするのに、あのまま唇が重なっていたら私の心臓はどうなるのだろう。想像するだけで顔が赤くなっちゃう。

「おかえりなさい、エリカ」
「ただいま戻りました、お母さま。……お出掛けですか?」
「ええ。たまにはデートをしないとね」

 私たちが玄関に入ると、綺麗に着飾ったお母さまが出迎えてくれた――というよりは、今から出掛けるみたいだ。お父さまも着飾っているし、ふたりが並ぶとなんだか眩しい。

「お母さまたちは明日まで帰らないから、ふたりでいろいろ話し合いなさいねぇ」

 私に近付いたお母様がこそっと耳にささやく。驚いて目を見開くと、お母さまは鼓舞するように私の肩をぽんぽんと叩いてからウインクした。

「それじゃあ、レオンハルトくん、エリカのことをよろしく頼むよ」
「はい、楽しんで来てください」

 お父さまとレオンハルトさまがそう言葉を交わして、入れ替わりのようにお父さまとお母さまが屋敷から出て馬車に乗る――までを見送り、ちらりと彼を見上げた。

 私の視線に気付いたのか、レオンハルトさまは「どうしました?」と首を傾げる。慌てて「いえっ」と両手を振ってから、真っ直ぐに彼を見つめて、カーテシーをした。

「レオンハルトさま、今日は私のワガママに付き合っていただいて、ありがとうございました」
「ワガママにも入りませんよ」
「そうでしょうか……? 私はとても心強かったですわ」

 ひとりで王城に向かうのはちょっと、勇気がいるからね。ダニエル殿下と会うかもしれないし……それは避けたかった。まあ、恐らく彼も私に会いたいとは思わないだろうけど。

 一方的に婚約破棄をしてきたのはあちらだし、デイジーさまもそれはわかっているみたいだから『愚息』なんて言ったんだろう。

「お役に立てたのなら良かった。エリカ嬢は少し休んだほうが良いと思います。顔が赤いですし……」

 それはあなたのせいです、とはさすがに言えなかった。

「そ、そうですわね。食事の時間まで休みますわ。レオンハルトさまは?」
「オレも休ませてもらいます。あ、紙とペンをお借りしても良いですか? 手紙を書きたいのです」
「それは構いませんが……、手紙、ですか?」
「ええ、エリカ嬢とともにフォルクヴァルツに向かうことを、先に知らせておこうかと」

 当たり前のように言われて、思わず目を大きく見開く。レオンハルトさまの描く未来の中に、私がいることが嬉しい。嬉しいけれど、それをさらりと言われると反応をすぐに返せなくて困ってしまう!

「それに、すぐに出発の準備をしたほうが良いでしょう?」
「……はい。フォルクヴァルツに向かいたいです」
「最短で何日あれば準備を終えられますか?」
「……三日ほどあれば、準備を終えられる自信がありますわ」
「なら、三日後にフォルクヴァルツに向かいましょう」

 にこり、と微笑むレオンハルトさまの表情に見惚れてしまう。こくこくと何度もうなずくと、彼の手が伸びてそっと私の頭を撫でてから頬に下がる。近い、近い、近いって……!

 ますます赤くなってしまう私に、レオンハルトさまは小さく口元に弧を描き、頬から手を離して自分の指を私の唇にちょんと当てた。

 その指を自分の唇に当て、

「それじゃあ、ゆっくり休んでください、エリカ嬢」

 と、言った。

「は、はい……」

 なに今の、なに今の!? 私の心をガシッと鷲掴みして離さない彼の言動に、心臓は高鳴り続けている。

 ――落ち着こう。そう、落ち着くのよ……、エリカ・レームクール!

 自室へと逃げるように向かい、自室に入って深呼吸を繰り返す。ずるずると扉を背にしてしゃがみ込んでしまった。

 心臓が早鐘を打ってうるさい。でも、それも悪くないなんて思う自分がいて驚いてしまった。レオンハルトさまと出会ってから、知らない自分に出会えるわ……。これが、恋の力なのかしら……?
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