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アデーレの言ったこと 1-2
しおりを挟む「イベントがどうのって言っていましたよね」
「……そうですわね」
そんなことを口にしたアデーレを見るデイジーさまの冷たい視線ったら! 絶対零度ってこういうときに使うのかしら。思い出しただけでもぞくっとするわ。
そしてなにより、そんなデイジーさまでも美しいのがまた恐ろしい。
美人が怒ると怖いってこういうことなのかしら。綺麗な顔で絶対零度の視線。それに動じないアデーレはある意味大物かもしれない。
「レオンハルトさま、今日は我が家でゆっくり休んでください」
付き合わせてしまったし、私を送ってからでは遅い時間になってしまうだろう。レオンハルトさまは目を一度瞬かせて、「では、お言葉に甘えます」とはにかんだ。
はにかむ姿もとても好み。この人自身が私のストライクゾーン過ぎるのよ……!
「両親と一緒の食事になると思いますが……」
「賑やかで良いですね」
お父さまとお母さまのことをそう言ってくれるって、なんだか嬉しい。
屋敷について、レオンハルトさまのエスコートで馬車を降りる。お父さまとお母さまは私たちに近付くと、
「疲れたでしょう?」
と、労わってくれた。
「お父さまとお母さまも、でしょう? 私のために怒ってくださって、本当にありがとうございます」
「あらぁ、エリカったら。お母さまを泣かせないでちょうだいな」
うるっとお母さまの瞳が潤んだ。
ハンカチを取り出して、目尻に浮かんだ涙を拭う。そんなお母さまを、お父さまが愛おしそうに抱きしめた。
「エリカのためにお父さまとお母さまが怒るのは当然だ。親だからな。ダニエル殿下とアデーレ嬢は、これからどうなるのか……まぁ、ふたりにはもう関係ない人たちなのだから、幸せになることだけを考えなさい」
……この国に居る以上、関係はあると思うのだけど……。でも、そうね。恐らくもうほとんど会うことはないでしょう。なんらかの行事で会うくらいかしら?
アデーレに関しては、どうなるのかもわからない。彼女は男爵令嬢だから……。ボルク男爵はどういう決断をなさるのかしらね。
「スッキリしたらお腹が空いたわぁ。フォルクヴァルツ辺境伯も一緒に食事をしましょう?」
「はい、ぜひ」
お母さまの言葉にぺこりと軽く頭を下げるレオンハルトさま。
私はとりあえず自室に向かい、このドレスを脱ごう。そして、別のドレスに着替えよう。気合を入れる用事は、もう終わったのだから。
「それでは、レオンハルトさま、私は着替えてきますね」
「はい、お疲れさまでした」
「レオンハルトくんは着替えるかい?」
「そうですね、着替えは持ち歩いているので、着替えます。正装ってなんだか着慣れなくて、変な感じがするので……」
「……そうか、きみは騎士団の服を着ていることのほうが多いか」
お父さまが納得したようにうなずき、それから私に視線を向ける。
「エリカ、食事の時間までゆっくり休んでいなさい」
「はい、お父さま。それでは、また食事の時間に」
カーテシーをしてから自室に足を進めた。後ろをちらりと振り返ると、お父さまとレオンハルトさまがなにかを話しているのが見える。どんな会話をしているのかしら……?
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