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謁見 2-2
しおりを挟む過ごした時間が短いなんて、私にとっては些細なこと。これから長い間一緒にいるのだから、この愛は深まっていく予感がする。
私があまりにもきっぱりと言ったからだろうか、ダニエル殿下とアデーレは、わなわなと拳を握って震えていた。
そっとレオンハルトさまが私の手を握る。それに気付いて、私がレオンハルトさまを見ると、彼は優しいまなざしを私に向けていた。
――ああもう、本当に、すっごく格好良い……!
レオンハルトさまは私からダニエル殿下とアデーレに視線を移動させて、それからにっこりと微笑みを浮かべた。
「――確かに、ダニエル殿下とアデーレ・ボルク男爵令嬢のおかげでエリカに出逢えたので……感謝しています。彼女との婚約を白紙にしていただけて」
ダニエル殿下はカッとしたように顔を真っ赤にさせた。アデーレはレオンハルトさまを憎々し気に睨んでいるし……一体なにがどうなっているのやら。
「ダニエル殿下はアデーレ嬢と婚約するのでしょう? エリカとはもう関係ないではありませんか。どうしてそんなに顔を赤くさせて激昂しているのです? まさか、彼女が自分以外を選ぶわけがないと考えていた、なんてことはありませんよね?」
煽ってる? 煽っているの? そんな爽やかな笑顔で? ああ、でも怒気が目に見えるようだわ……。そんなところも素敵。
ダニエル殿下が「誰かあいつの口を塞げ!」と騒いだけど、誰もダニエル殿下の言うことは聞かなかった。……オイゲン陛下がとても冷たい目でダニエル殿下を見つめる。
……一体、なにが起ころうとしているの?
「……王として、父として情けない。エリカ・レームクール伯爵令嬢、よく八年もの間耐えてくれた。レオンハルト・フォルクヴァルツ辺境伯、エリカ嬢をよろしく頼む」
「はい、お任せください。ふたりで幸せになります」
レオンハルトさま、私が言ったことを覚えていてくださったのね。
そして、今現在、とても幸せです! とは口を挟めない雰囲気。戸惑っている私に、アデーレが叫んだ。
「ダメよ! エリカさまが国内に居ないと、あのイベントが発生しないじゃない!」
「……アデーレ? なにを言っているんだ?」
ダニエル殿下が驚いたように彼女を見た。そして私は、イヤな予感が的中したことを知る。これ、ヒロインも転生しているパターンだ! よく小説や漫画であるよね!
「おかしいのよ! だってこの世界はわたくしのための世界なのに!」
そのセリフがおかしいことに気付いて……!
困惑しているダニエル殿下たちに対して、デイジーさまは冷静だった。凛とした声で、「錯乱しているようだから、大人しくさせなさい」と護衛たちに命じた。
腕を掴まれて動きを封じられたアデーレは、ダニエル殿下に助けを求めたけど、彼はアデーレの豹変についていけないようで、なにも言えずにいた。いや、戸惑っているのは私たちもなんだけど……。
「わたくしはこの国の国母になるのよ! 離しなさい!」
「頭を冷やせるところへ連れていきなさい。そうね、塔の最上階なんていかが?」
デイジーさまは扇子を広げて口元を隠し、淡々とした口調でそう言うと、オイゲン陛下へ視線を向けた。陛下が「王妃の言う通りに」と一言告げると、護衛たちはジタバタと暴れるアデーレを引きずるように去って行く。
……私がこの国に居ないとイベントが発生しないって、どういうことだったのか……。
「ダニエル、アデーレ・ボルクはお前に対してもあのような態度を取っていたのか?」
確認するように、オイゲン陛下が尋ねた。ダニエル殿下はふるふると首を横に振る。呆然としているように見えるのは、気のせいではないだろう。
「女の裏側を知らないとは、情けないわね」
なにかを知っているのでしょうか、デイジーさま。呆れたような視線を受けて、ダニエル殿下は俯いてしまった。
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