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謁見 1-2
しおりを挟むアデーレがなぜかぎょっとしたように目を見開き、扇子を開いて口元を隠す。
「どうしてそんなにすぐに王都から出て行こうと思うんですか? あ、もしかしてダニエル殿下と婚約破棄をしたから……?」
紡がれた言葉に聞こえないようにため息を吐く。ちらりと彼女を見ると、ぎゅうっと胸を押し当てるようにダニエル殿下と腕を組んでいて、さてどう返答しようかしら? と考えていると、私よりも先にレオンハルトさまが口を開いた。
「フォルクヴァルツは遠いですからね。それに、善は急げと言うでしょう? わたしにとってエリカ嬢を娶れるのは善なので、急ぎたいのです」
レオンハルトさまの言葉が、私の心に沁み込んでいくようだった。こんなに私のことを望んでくれる方がいるなんて、なんて幸せなことなのかしら!
「ええっ? でも、そんなに急ぐ理由はないじゃないですか! レオンハルトさまも王都に来たばかりなのでしょう? もっとゆっくり過ごせば良いじゃあないですか?」
「――アデーレ嬢、私を王都から出したくないような言い方ですね」
アデーレはそれが図星だったのか、一瞬眉を跳ねさせた。口元を隠していても、彼女の表情が歪んでいるのがわかる。
私が原作の流れを無視していたから、アデーレとダニエル殿下はまだ婚約者じゃないのよね。原作なら、卒業パーティーで婚約破棄を宣伝後、すぐに結ばれるふたりのはずだ。
八年前に婚約してから、ダニエル殿下の浮気癖に気付いた。そのおかげで彼に本気で惚れることはないな、と感じたのも事実。
私は私を大切にしてくれる人が良い。
婚約者になって最初の浮気に気付くまでは、彼に見合う女性になろうとした。浮気に気付いてからは、『ダニエル殿下』という個人ではなく、『王族』の婚約者として胸を張れるようにがんばったのよ。
彼に見合う私になるという、その決意を……悉く台無しにしたのはダニエル殿下だ。
学園に入学してからも、彼は私よりも他の女性を選んだ。その筆頭がアデーレなのよね。ダニエル殿下はアデーレを選んだ。それだけの話。
「そ、そんなことはありませんわ。ただ、わたくしは……エリカさまとお話をしたくて」
「なぜ?」
「えっ?」
私が問いかけると、アデーレは目に見えて狼狽えた。
なにをそんなに狼狽えることがあるのか……。そもそも婚約者を奪ったアデーレと奪われた私で、なにを話すことがあると言うのか、聞かせてもらいたいわねぇ。
「だ、だって……婚約破棄したばかりなのにすぐにお見合いなんて、どういうお気持ちだったのかしらって……」
だって、に繋がる言葉ではないわよね?
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