27 / 66
両親の馴れ初め 前編
しおりを挟む「……それは、お母さまがお父さまに恋をしてから、知った感情なのですか?」
「あら、気付いちゃったぁ? うふふ、そうよぉ」
お母さまは私に向けて笑みを浮かべて、それから頬に手を添えた。
「お母さまとお父さまの馴れ初めを、教えていただけますか?」
お母さまはキョトンとした表情になったけれど、すぐににんまりとした笑みを浮かべ、空を見上げる。
「社交界デビューしたときに、あの人がいたのよぉ。留学していたの。パッと見て、お父さまに一目惚れしてねぇ。そのまま勢いでプロポーズしちゃったのよぉ」
うふふ、と笑うお母さまに、私は目を丸くした。お母さまが、お父さまにプロポーズしたの!? お父さま、びっくりしたんじゃないかな?
「お父さまは、すぐにお母さまのプロポーズを受けたのですか?」
「いいえ、まさかぁ。会って数分もしないうちのプロポーズだったから、なにかの冗談だと思ったみたい。でもね、お母さまが真剣なことに気付いてくれて、まずはお友達からってことになったのよぉ」
懐かしむように目元を細めて空を見上げ続けるお母さま。それから、今度は私に顔を向けた。
「お父さまが国に帰るときに、『あなたはこの国に未練はないのですか?』って聞かれたわねぇ。だから、『あなたがいない国で暮らすことのほうがイヤです』って答えたの。そしたら彼、国に帰って一ヶ月くらいでお母さまの元に来てくれてね、プロポーズをしてくれたのよぉ」
きゃっとはしゃぐように両頬に手を添えて、顔を赤く染めた。本当に、お父さまのことが好きなのね。
「それで、この国に来たわけなんだけどぉ……やっぱり文化の違いや話し方の違いってあるじゃなぁい? それでいろいろあったし、お父さまを狙う人って結構いたのよねぇ。女同士の戦いが始まったけれど、お父さまはお母さまのことをとっても! 大事にしてくれたのよぉ」
お母さまは私の肩をバシバシと叩いた。照れ隠しなのかもしれないけれど、地味に痛いです、お母さま……。
「人を好きになるって、自分の醜い感情とも向き合わなくちゃいけないけれど、それ以上に世界がすべてキラキラして見えるのよぉ。あの人に見合う自分になりたいって努力することも苦じゃないの。それにしても、惚れた男にまっしぐらなのは、お母さまの血筋なのかしらねぇ?」
じーっと私を見つめてくすくす笑うお母さまに、私は頬が赤くなったと思う。確かにレオンハルトさまにまっしぐらだった。
「――あなたが恋を出来て良かったわぁ」
「……え?」
「ずっと、無理をしていたでしょう? ダニエル殿下の婚約者になってから、その身分に負けないようにって。背伸びをするのは悪いことじゃあないけれど、あなたが苦しんでいるように見えたの。それに、エリカの努力も知らずにのうのうと過ごしているダニエル殿下には、エリカを任せられないわぁって、前々から思っていたのよぉ?」
そんなことを考えていたなんて、知らなかった。両親が私の努力を知っていたことも、こんなに私のことを愛してくれていたことも、なんだかすごく嬉しかった。
思えば、私が背伸びをしているときでも、両親は黙って見守ってくれていた。体調が悪くなる前にストップをかけてくれていたのも家族だ。
26
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説

婚約破棄を目指して
haruhana
恋愛
伯爵令嬢リーナには、幼い頃に親同士が決めた婚約者アレンがいる。美しいアレンはシスコンなのか?と疑わしいほど溺愛する血の繋がらない妹エリーヌがいて、いつもデートを邪魔され、どっちが婚約者なんだかと思うほどのイチャイチャぶりに、私の立場って一体?と悩み、婚約破棄したいなぁと思い始めるのでした。

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~
岡暁舟
恋愛
名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。


ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

ここへ何をしに来たの?
柊
恋愛
フェルマ王立学園での卒業記念パーティ。
「クリストフ・グランジュ様!」
凛とした声が響き渡り……。
※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しています。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる