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婚約成立を報告! 後編
しおりを挟む「お父さま、この方なら……、私は大丈夫だと思います」
「そうねぇ、エリカがそう言えるくらいだもの。反対なんてしないでしょう?」
お母さまが扇子で口元を隠して目元を細める。お父さまは私たちの顔をじっくりと眺めて、それから小さく息を吐いた。
「――娘をよろしく頼む」
「はい、ありがとうございます。必ず、幸せにします」
その言葉に私はレオンハルトさまに駆け寄って手を繋いだ。
「違いますわ、レオンハルトさま。私がレオンハルトさまに幸せにしてもらうのではなく、私たちが幸せになるのです」
レオンハルトさまは一瞬驚いたように目を見開いて、私を見る。私がにこりと微笑むと、彼は「……そうですね」と頬を染めてうなずいた。
「では、これで婚約成立だ。――ああ、なんだかあっという間に決まって良かったような寂しいような……」
「あなたったら……。でもそうねぇ、今度は心から祝福できるわぁ」
お母さまが扇子を閉じてお父さまの背後に近付き、後ろからぎゅっと抱きしめた。私たちを見るふたりの表情は、安心しきっているように見えた。なんだか、くすぐったい気持ちだわ。だって、ダニエル殿下と婚約したときより、良い笑顔だったから。
「さて、レオンハルトくん、まだ時間はあるかな?」
「はい」
「では、ここからは男同士で話そうじゃないか!」
明るくそう言うお父さまに、お母さまはそっと離れて私の手を取った。
「それじゃあ、エリカはお母さまと散歩でもしましょうねぇ」
「え? あ、はい……」
レオンハルトさまの手を離すのは、なんだか名残惜しい気がした。でも、こうしてお母さまと一緒に散歩ができるのももう残り少なくなるだろう。そう考えると、家族の時間も大切にしたかった。
ちらりとレオンハルトさまを見ると、彼は優しく微笑んでうなずいた。
お父さまは椅子から立ち上がり、レオンハルトさまに近付くとガシッと肩を掴んでバンバンと叩き、彼を連れて歩き出す。
その姿を見送り、くすくすと笑うお母さまに視線を向けると、お母さまは「その前に、お茶を飲みましょうねぇ。せっかく淹れてもらったんだし」とすっかりぬるくなったお茶を一気に飲み干した。私もカップを持ち、ごくごくと飲み干す。ぬるくなっても美味しいお茶だ。
「エリカ、行きましょう?」
「はい、お母さま」
執務室を出て、お母さまについて行く。お母さまは中庭までの道を歩いていく。咲いている花々を眺めながら、「それで、彼のこと、好きになったのぉ?」と聞いてきた。
「お、お母さま……!?」
「あら、お顔が真っ赤よぉ。うふふ、エリカも恋をしたのねぇ」
「確かに、レオンハルトさまを想うと……鼓動が早鐘を打つようです」
「恋は良いわよぉ。女の子を綺麗にしてくれるし、世界が輝いて見えるの。――でもねぇ、恋って、綺麗なだけではいられないのよぉ」
ちらりと私を見て、それからにこにこと笑いながら恋のことについて語り出した。
「綺麗なだけではいられない……?」
「人を好きになるって、自分の醜い心と向き合うことでもあるのよぉ」
「醜い心?」
「ええ。あの女性とどうして親しげなのかしら? どうしてそんなに優しくするのかしら? どうして笑顔を見せるのかしら? って……まぁ、嫉妬よねぇ」
「嫉妬」
「それだけじゃないわぁ。独占欲も出るでしょうし、彼がどんなことを考えているのか気になっちゃう。……でもね、それも人を好きにならないと感じないことだと思うのよぉ」
しみじみと語るお母さまに、お父さまに対してそんなことを感じていたのかな? と考えた。
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