1 / 66
卒業パーティーで婚約破棄イベント 1-1
しおりを挟むとある学園の卒業パーティー。みんな色とりどりのドレスを着て、パートナーにエスコートしてもらっている。
そんな中、私――エリカ・レームクールはたったひとりで会場に入った。みんながざわざわとざわめいているのを聞いて、小さく息を吐く。
お父さまとお母さまが、この日のために買ってくれたドレス。淡い水色の生地に銀色の刺繍が美しいこのドレスも、こんな風に注目を浴びるとは思わなかっただろう。
華美なアクセサリーよりもシンプルなアクセサリーを好む私の格好は、一見するとあまり目立たないかもしれない。だが、ネックレスもイヤリングも超がつくほどの一級品だ。
艶のある黒髪をアップにして、落ち着いたピンク色の瞳で辺りを見渡す。
――会場の真ん中に、探していた人たちがいた。
私と同じ淡い水色の生地のドレス。違うとすれば彼女のドレスの刺繍は金色ということだろうか。アクセサリーは大きさを誇るようにきらりと光っている。たぶん、隣にいる第一王子、ダニエル殿下から贈られたものだろう。
濃いピンク色の髪に、晴天を思わせる瞳。愛らしい顔立ちの彼女。誰もが庇護欲を駆られるような彼女。――の、ハズなんだけど、勝ち誇った表情を浮かべているのを見て、小さく肩をすくめた。
「――ごきげんよう、エリカさま」
「ごきげんよう、アデーレさま」
にこり、と微笑み合う私たち。この世界のヒロインであるアデーレ・ボルク男爵令嬢は、ぎゅっとダニエル殿下の腕に抱きついて、豊満な胸を押し当てている。その感触に一瞬デレッと表情を崩すダニエル殿下に、私は気付かれないようにため息を吐いた。
ダニエル殿下は、アデーレを愛しそうに見てから、私を睨むように見つめる。笑みを浮かべてみせると、少し怯んだようだ。でも、これでわかる。
――私はこれから、婚約破棄を告げられるのだろう。
別に構わない。婚約者であるダニエル殿下を愛しているわけではなかったから。
彼の隣に立つための努力がなかったことにされるのはもちろん悔しいが、与えられた知識や王子の妃となるために必要とされた立ち振る舞い方などは、ある意味私の財産とも言えるだろう。
ダニエル殿下は私のことをじっと見て――それから、ゆっくりと口を開き、こう言った。
「エリカ、きみとの婚約破棄を宣言する」
それまでざわついていた学生たちが一気にしんと静まり返った。まぁ、そうなるわよね。
この国の第一王子であるダニエル殿下が、婚約者である私にこんな場所で婚約破棄を宣言したのだから。
私はちらりとアデーレに視線を向けて、もう一度ダニエル殿下に視線を向けて、すっとカーテシーをした。
「かしこまりました、お幸せに!」
満面の笑みを浮かべて祝福の言葉を掛けると、ふたりは目を丸くした。
「……え、なんでそんなに乗り気ナンデスカ……?」
アデーレが弱々しく尋ねてきた。どうやら、私の反応は予想と違っていたらしい。
47
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

剣豪令嬢と家出王子の逃避行
藍田ひびき
恋愛
第二王子ユリウスの婚約者である伯爵令嬢ルイーゼは、王子の母親である王妃から、一方的に婚約破棄を告げられた。
ルイーゼは傷物令嬢として社交界で肩身の狭い思いをするより、剣の道に生きようと決める。
実は、ルイーゼは剣の達人だったのだ。
家族の反対を押し切って実家を出奔したルイーゼは、冒険の旅に出る。
だが、そこにユリウス王子が追いかけてきて……?
※完結しました。番外編は登場人物のその後や、本編のサイドストーリーとなります。
※恋愛小説大賞にエントリーしました。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる