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2章:アシュリンと出会い。
アシュリンとお星さま。 6話
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「まったく覚えてないや」
「赤ちゃんの頃ってそうだよね!」
覚えていないのが普通なのだと、アシュリンはホッとしたように胸を撫でおろす。
「あっ、そうだ! ごはんも食べ終わったし、これ、食べてみない?」
アシュリンはテーブルに置いてあるこんぺいとうの小瓶を、ひょいと持ち上げる。彼女の提案が少し意外だったのか、ラルフが「それはきみのものでしょ?」ときょとりとしていた。
「うん、わたしのものだから、わたしが好きな人たちにあげたいの」
こんぺいとうの入った小瓶をずいっとラルフに見せる。あまりにも近くて――いや、アシュリンの言葉に、ラルフはこんぺいとうと彼女を交互に見て、ふっと笑みを浮かべる。
まだ出会って時間も経っていないのに、自分が彼女の『好きな人たち』に入っていることにじんわりと心が温かくなった。
「みんなで食べよ。ノワールとルプトゥムも!」
「本来使い魔は食事、いらないのだが……?」
「食べられないわけじゃないでしょ? ノワールは人間の食べ物好きだよ」
「にゃあ」
本来、使い魔は主人の魔力を食べる。だから、人間が食べるものは口にしない。だが、ノワールは人間の食べ物を好んだ。ペットのネコには人間の食事をあげることはダメだが、黒猫のように見えるだけで使い魔は動物ではない。
赤ちゃんが生まれるときに一緒に生まれる――精霊のようなものだ。
使い魔の寿命は主と同じで、主と同じ時間をともに歩み、主を守るのが仕事である。
なので、使い魔のノワールとルプトゥムが人間と同じものを食べても、問題はない。
「ダメ?」
「ルプトゥム、どうする?」
「では、いただこう」
ルプトゥムの言葉に、アシュリンはぱぁっと花がほころぶように笑った。
「ラルフは?」
「いただくよ」
「うん! じゃあ、開けるね」
コルクのふたをきゅっとつまんで、ぐっと力を入れるとポンっと良い音がテント内に響いた。思ったよりもあっさりと開いて、アシュリンはびっくりしてこんぺいとうの入った小瓶を見つめる。
「えっと、じゃあ、お星さま、どうぞ!」
小瓶をちょっとだけかたむけて、手のひらにこんぺいとうを取り出す。
赤、青、黄、緑、ピンク……色とりどりのこんぺいとうを、ラルフは「じゃあ」と赤色のこんぺいとうをつまんで口に運んだ。
ルプトゥムの分も黄色のこんぺんいとうを取り、「あーん」と口を開けるようにうながす。素直に口を開けるルプトゥムにこんぺいとうを入れると、目を閉じてもぐもぐと食べる。
アシュリンはノワールにピンク色のこんぺいとうをあげた。彼女も青色のこんぺいをぱくりと食べた。思ったよりも固くないようで、すぐに噛めた。シャリッとした食感と舌に広がる甘み。
「あまくておいしい! ……って、あれ?」
ラルフとルプトゥム、ノワールを見てアシュリンは目を丸くする。なにか違和感があるなぁとじっと観察していると、「あっ!」と大きな声を上げた。
「髪の色! 変わってる!」
「え? あ、ルプトゥムが黄色くなってる! ノワールはピンク、アシュリンは青!」
「ラルフは赤くなってるよ!?」
『どうやら食べた色に髪色が変わる、魔法のこんぺいとうのようですね!』
本がはしゃぐようにテント内をふわふわと舞っていた。みんなの色が変わったことがゆかいだったようで、左右に揺れたり、上下に移動したりとページをめくりながらその様子を楽しんでいる。
「これもとにもどるのー!?」
アシュリンの叫びが、テント内に響き渡った。
「赤ちゃんの頃ってそうだよね!」
覚えていないのが普通なのだと、アシュリンはホッとしたように胸を撫でおろす。
「あっ、そうだ! ごはんも食べ終わったし、これ、食べてみない?」
アシュリンはテーブルに置いてあるこんぺいとうの小瓶を、ひょいと持ち上げる。彼女の提案が少し意外だったのか、ラルフが「それはきみのものでしょ?」ときょとりとしていた。
「うん、わたしのものだから、わたしが好きな人たちにあげたいの」
こんぺいとうの入った小瓶をずいっとラルフに見せる。あまりにも近くて――いや、アシュリンの言葉に、ラルフはこんぺいとうと彼女を交互に見て、ふっと笑みを浮かべる。
まだ出会って時間も経っていないのに、自分が彼女の『好きな人たち』に入っていることにじんわりと心が温かくなった。
「みんなで食べよ。ノワールとルプトゥムも!」
「本来使い魔は食事、いらないのだが……?」
「食べられないわけじゃないでしょ? ノワールは人間の食べ物好きだよ」
「にゃあ」
本来、使い魔は主人の魔力を食べる。だから、人間が食べるものは口にしない。だが、ノワールは人間の食べ物を好んだ。ペットのネコには人間の食事をあげることはダメだが、黒猫のように見えるだけで使い魔は動物ではない。
赤ちゃんが生まれるときに一緒に生まれる――精霊のようなものだ。
使い魔の寿命は主と同じで、主と同じ時間をともに歩み、主を守るのが仕事である。
なので、使い魔のノワールとルプトゥムが人間と同じものを食べても、問題はない。
「ダメ?」
「ルプトゥム、どうする?」
「では、いただこう」
ルプトゥムの言葉に、アシュリンはぱぁっと花がほころぶように笑った。
「ラルフは?」
「いただくよ」
「うん! じゃあ、開けるね」
コルクのふたをきゅっとつまんで、ぐっと力を入れるとポンっと良い音がテント内に響いた。思ったよりもあっさりと開いて、アシュリンはびっくりしてこんぺいとうの入った小瓶を見つめる。
「えっと、じゃあ、お星さま、どうぞ!」
小瓶をちょっとだけかたむけて、手のひらにこんぺいとうを取り出す。
赤、青、黄、緑、ピンク……色とりどりのこんぺいとうを、ラルフは「じゃあ」と赤色のこんぺいとうをつまんで口に運んだ。
ルプトゥムの分も黄色のこんぺんいとうを取り、「あーん」と口を開けるようにうながす。素直に口を開けるルプトゥムにこんぺいとうを入れると、目を閉じてもぐもぐと食べる。
アシュリンはノワールにピンク色のこんぺいとうをあげた。彼女も青色のこんぺいをぱくりと食べた。思ったよりも固くないようで、すぐに噛めた。シャリッとした食感と舌に広がる甘み。
「あまくておいしい! ……って、あれ?」
ラルフとルプトゥム、ノワールを見てアシュリンは目を丸くする。なにか違和感があるなぁとじっと観察していると、「あっ!」と大きな声を上げた。
「髪の色! 変わってる!」
「え? あ、ルプトゥムが黄色くなってる! ノワールはピンク、アシュリンは青!」
「ラルフは赤くなってるよ!?」
『どうやら食べた色に髪色が変わる、魔法のこんぺいとうのようですね!』
本がはしゃぐようにテント内をふわふわと舞っていた。みんなの色が変わったことがゆかいだったようで、左右に揺れたり、上下に移動したりとページをめくりながらその様子を楽しんでいる。
「これもとにもどるのー!?」
アシュリンの叫びが、テント内に響き渡った。
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