【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花

文字の大きさ
上 下
35 / 70
2章:アシュリンと出会い。

アシュリンとお星さま。 6話

しおりを挟む
「まったく覚えてないや」
「赤ちゃんの頃ってそうだよね!」

 覚えていないのが普通なのだと、アシュリンはホッとしたように胸をでおろす。

「あっ、そうだ! ごはんも食べ終わったし、これ、食べてみない?」

 アシュリンはテーブルに置いてあるこんぺいとうの小瓶を、ひょいと持ち上げる。彼女の提案が少し意外だったのか、ラルフが「それはきみのものでしょ?」ときょとりとしていた。

「うん、わたしのものだから、わたしが好きな人たちにあげたいの」

 こんぺいとうの入った小瓶をずいっとラルフに見せる。あまりにも近くて――いや、アシュリンの言葉に、ラルフはこんぺいとうと彼女を交互に見て、ふっと笑みを浮かべる。

 まだ出会って時間もっていないのに、自分が彼女の『好きな人たち』に入っていることにじんわりと心が温かくなった。

「みんなで食べよ。ノワールとルプトゥムも!」
「本来使い魔は食事、いらないのだが……?」
「食べられないわけじゃないでしょ? ノワールは人間の食べ物好きだよ」
「にゃあ」

 本来、使い魔は主人の魔力を食べる。だから、人間が食べるものは口にしない。だが、ノワールは人間の食べ物を好んだ。ペットのネコには人間の食事をあげることはダメだが、黒猫のように見えるだけで使い魔は動物ではない。

 赤ちゃんが生まれるときに一緒に生まれる――精霊のようなものだ。

 使い魔の寿命じゅみょうは主と同じで、主と同じ時間をともに歩み、主を守るのが仕事である。

 なので、使い魔のノワールとルプトゥムが人間と同じものを食べても、問題はない。

「ダメ?」
「ルプトゥム、どうする?」
「では、いただこう」

 ルプトゥムの言葉に、アシュリンはぱぁっと花がほころぶように笑った。

「ラルフは?」
「いただくよ」
「うん! じゃあ、開けるね」

 コルクのふたをきゅっとつまんで、ぐっと力を入れるとポンっと良い音がテント内に響いた。思ったよりもあっさりと開いて、アシュリンはびっくりしてこんぺいとうの入った小瓶を見つめる。

「えっと、じゃあ、お星さま、どうぞ!」

 小瓶をちょっとだけかたむけて、手のひらにこんぺいとうを取り出す。

 赤、青、黄、緑、ピンク……色とりどりのこんぺいとうを、ラルフは「じゃあ」と赤色のこんぺいとうをつまんで口に運んだ。

 ルプトゥムの分も黄色のこんぺんいとうを取り、「あーん」と口を開けるようにうながす。素直に口を開けるルプトゥムにこんぺいとうを入れると、目を閉じてもぐもぐと食べる。

 アシュリンはノワールにピンク色のこんぺいとうをあげた。彼女も青色のこんぺいをぱくりと食べた。思ったよりも固くないようで、すぐにめた。シャリッとした食感と舌に広がる甘み。

「あまくておいしい! ……って、あれ?」

 ラルフとルプトゥム、ノワールを見てアシュリンは目を丸くする。なにか違和感があるなぁとじっと観察かんさつしていると、「あっ!」と大きな声を上げた。

「髪の色! 変わってる!」
「え? あ、ルプトゥムが黄色くなってる! ノワールはピンク、アシュリンは青!」
「ラルフは赤くなってるよ!?」
『どうやら食べた色に髪色が変わる、魔法のこんぺいとうのようですね!』

 本がはしゃぐようにテント内をふわふわとっていた。みんなの色が変わったことがゆかいだったようで、左右に揺れたり、上下に移動したりとページをめくりながらその様子を楽しんでいる。

「これもとにもどるのー!?」

 アシュリンの叫びが、テント内にひびき渡った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

【完結】イケメン旦那と可愛い義妹をゲットして、幸せスローライフを掴むまで

トト
児童書・童話
「私も異世界転生して、私を愛してくれる家族が欲しい」  一冊の本との出会いが、平凡女子をミラクルシンデレラに変える

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

処理中です...