【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花

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2章:アシュリンと出会い。

アシュリンとお星さま。 2話

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 アシュリンの提案に、ラルフは目を大きく見開き、こくっとうなずいた。

 こんなに気持ちの良い朝だから、身体を動かしたいという彼女の気持ちもわかったからだ。二人は屈伸くっしんをしたり腕を伸ばしたりと柔軟じゅうなん体操を始め、朝の空気を思い切り吸い込む。

「はー、いやされるぅー」

 ぎょっとしたようにアシュリンを見るラルフ。十歳の少女の言葉とは思えなかったからだ。ノワールは「そうだねー」と彼女に同意していたし、もしかしたら家族の影響えいきょうなのかもしれないと考え、動きを止めた。

「ラルフ、どうしたの?」
「アシュリンはこの柔軟体操、誰から習ったの?」
「家族にだよ! お父さんが柔軟体操の最後に深呼吸するの!」
「そのときに『いやされる』って言ってた?」
「うん!」

 元気よく返事をするアシュリン。ラルフは彼女の様子を見て納得した。父親の真似で口にしているだけで、おそらく言葉の意味を理解していない、と。

「身体もぽかぽかしてきたし、朝ごはん食べたら出発しよ?」
「うん、そうしよう」

 ラルフの返事を聞いて、アシュリンは明るく笑った。こんぺいとうをポケットにしまい、テントに戻ろうとして足を止め、彼を振り返る。

「一緒に食べよ?」

 そう誘うと、アシュリンは返事を聞かずにテントに入ってしまう。残されたラルフとルプトゥムは互いに視線を交わし、ラルフはもふっとルプトゥムの頭を撫でた。

 彼女を追うように、ラルフたちもテントの中に入る。

 テントの中は昨日と同じようにテーブルと椅子が置かれ、テーブルの上にはアシュリンがリュックから取り出した食事が並んでいた。

「お腹ぺこぺこ! たべよー!」
「今日もごちそうになっていいの?」
「もちろん! 一緒に食べたほうがおいしいし」

 アシュリンは誰かと一緒に食事をすることが好きだ。ラルフはほぼ一人で食べることが多かったので、彼女と一緒に食べることは新鮮で不思議な気持ちになる。

「それに、今日はこのこんぺいとうもあるしね! かわいいよね、カラフルで」
「――ぼくにもくれるの?」

 ラルフは意外そうに目を丸くする。アシュリンも不思議そうに彼を見て、「あげるよ」とポケットからこんぺいとを取り出してテーブルの上に置いた。

「こんぺいとうって、あまいおかしなんだって。あまいもの、きらい?」

 アシュリンの問いにラルフは首を横に振る。良かった! と笑う彼女にラルフはじっとこんぺいとうが入った小瓶を見つめる。

「――世の中不思議なこともあるんだなぁ……」

 あとで自分の荷物を確認しようと心に決め、ラルフはアシュリンが用意してくれた食事に手を伸ばす。

 アシュリンもサンドウィッチに手を伸ばして、はむっとかじりつく。にこにことおいしそうに食べる。ハムとチーズのシンプルなサンドウィッチは、彼女が初めて作った料理でもある。

 とはいえ、ハムとチーズは母のホイットニーが切り、アシュリンはパンにバターを塗って具材をはさむだけという簡単なことしかしていないが、『小さなことからね』とホイットニーに言われているので、気にしていない。

 このサンドウィッチは、旅立ちの日にホイットニーが作ってくれたものだ。

 魔法のリュックに入れておけば、いつでも食べられるからお楽しみに取っておいたもの。もぐもぐとリスのように頬をふくらませて食べる姿を、ラルフはどこか感心したようにながめている。
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